キノ・イグルーの週末シネマ​ no.236
プレイタイム|クリスマスプレゼントを貰った気分「しあわせ」を感じる映のカバー画像

プレイタイム|クリスマスプレゼントを貰った気分「しあわせ」を感じる映画

文:キノ・イグルー 有坂塁

プレイタイム|監督:ジャック・タチ(1967年・フランス/イタリア)

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2021年12月24日作成



日常の中に転がる、小さなしあわせの数々。

背中を丸めて眠る猫。焼き立てのパンの匂い。アナログレコードの音色。

子どもの寝息。真冬のホットココア。

得体の知れない"大きな"ものを追いかけていた

20代の頃では到底気づけなかった、ささやかな幸福。

そんな感覚に目が覚めて以降、

その影響は、映画鑑賞にもポジティブな変化を与えてくれました。


"物語"一辺倒から、トータル的な楽しみ方へ。

これまで気にならなかった映像や編集、

衣装、音楽などのディテールが自然とキャッチできるようになってからは、

より深く映画にハマっていくことになるのですが、

その流れの中で出会ったのが、フランス人のジャック・タチでした。


映画監督であり喜劇役者。

物語とディテールが仲良く手をつないでいるピースフルな作品群は、

いつでも言葉にならない幸福感を与えてくれます。


今回は彼のフィルモグラフィーの中でも、

あえて最も芸術点の高い『プレイタイム』をご紹介したいと思います。

まずは内容から、どうぞ。


***


アメリカ人観光客がオルリー空港に到着し、パリ観光へと出かけて行く。

仕事の面接を受けようとするユロ氏は、

近代的なビルディングの中ですれ違いを繰り返し、

担当者と会うことができない。

街をさまようユロ氏は、

開店したてのレストランでアメリカ人観光客の女性と出会うのだが…


***


といった、のんきな雰囲気の物語となっていますが、

じつはこう見えて、映画史上屈指のコメディ大作であり、

タチにとって最大の野心作でもあります。


しかし興行は大失敗に終わり、

タチは破産に追い込まれてしまうという曰く付きの作品であったりもするのです。

こう見えて。


でも、時間とともに再評価が進み、

いまや映画芸術の頂点とまで讃えられる傑作に。

ようやく、時代がタチの感覚に追いついたわけです。


どんな作品かというと…


巨額の製作費を投入し、パリ郊外に巨大なオープンセットを建造。

さらに、画角の広い70mmワイドスクリーンを使って、

大画面の中で複数のものが同時に蠢くシーンをいくつも作り上げます。


ユロ氏という主人公がいながらも、

その周辺のミクロな出来事や、細かなギャグを過剰なまでに盛り込み、

世界全体を楽しむという、スケールの大きな演出が施されているのです。


よって、画面の情報量がものすごい!

パントマイム芸もあれば、扉やガラスを使った小道具ギャグ、

音響を駆使した笑いまで取り入れ、

もはや追い切れないほどの小ネタを詰め込んで、

観る者を楽しませてくれます。


中でも最大の見どころは、ラストに待ち受けるレストランのシーン。

ここは笑いの密度が特に濃く、

時間経過とともにレストランはカオスの空間と化していきます。

ここは、ほんとすごい!


そして一転、そこから続く明け方のシーンでは、

開放感に溢れ、観客を心地よいグランドフィナーレへと誘ってくれるのです。


そんな多幸感に満ちた125分。

2021年の締めくくりとして、ピッタリではないでしょうか。

ぜひ観てみてくださいね!


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『プレイタイム 4Kレストア版』
Blu-ray 5,280円(税込)
発売元:アイ・ヴィー・シー

映画選定・執筆

有坂塁
キノ・イグルー 
有坂塁
キノ・イグルーは、2003年に有坂塁が渡辺順也とともに設立した移動映画館。
東京を拠点に全国のカフェ、パン屋、酒蔵、美術館、 無人島などで、世界各国の映画を上映している。
さらに「あなたのために映画をえらびます」という映画カウンセリングや、
目覚めた瞬間に思いついた映画を毎朝インスタグラムに投稿する「ねおきシネマ」など、
大胆かつ自由な発想で映画の楽しさを伝えている。
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