キノ・イグルーの週末シネマ​ no.120
パターソン|マイペースでいい心の余白の作りかのカバー画像

パターソン|マイペースでいい心の余白の作りかた

文:キノ・イグルー 有坂塁

パターソン|監督・脚本:ジム・ジャームッシュ(2016年・アメリカ)

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2019年10月04日作成



毎朝、近所の公園をランニングしています。
かれこれ9年近く。


走るペースはコンディションによって違いますが、

池のまわりを大きく3周すると、だいたい30分ぐらい。

そのあとは、カモの親子を眺めたり、

散歩する犬にちょっかいを出したりと、

ベンチでボーッとする時間を大切にしています。

このトータル60分ぐらいの時間が、

ぼくの生活のルーティーンになっています。


このおだやかな時間に、スマホは持っていきません。

音楽も聴かない。自然の音に耳を澄ませながら、

無意識に感じているであろう日々のストレスから、

心と体を解放してあげます。


このような"余白"があるからこそ、

さまざまなアイデアが浮かんでくるし、

素敵な出会いにも恵まれるのだと思っています。

これが、ぼく自身の余白の作りかた。


ではそんなぼくが、

映画の中で最も"余白"を感じた作品はと言えば

それは『パターソン』ということになります。


アダム・ドライバーが演じた主人公の生き方もそうですし、

作品全体からも、詰め込みすぎない心地よさを感じたのです。


こんな内容。


***


ニュージャージー州パターソンに住むバス運転手のパターソン。

彼の1日は朝、隣に眠る妻ローラにキスをして始まる。

いつものように仕事に向かい、乗務をこなす中で、

心に芽生える詩を秘密のノートに書きとめていく。

帰宅して妻と夕食を取り、愛犬マーヴィンと夜の散歩。

バーへ立ち寄り、1杯だけ飲んで帰宅しローラの隣で眠りにつく。

そんな一見変わりのない毎日。7日間のお話。


***


本作がたまらなく素晴らしいのは、

いつもと変わらない日々を、美しさと愛に溢れた、

かけがえのない時間として描いたところ。


何にもない日なんてないし、

日々の移り変わりの中で感じることもたくさんある。

ゆるやかな変化に気付ける心さえあれば、

人生は何倍だって輝くんだよ!

というその人生観に、心の有り様に、

ぼくは激しく感動してしまいました。


もうひとつ驚いたことがあります。

それは、この『パターソン』という作品自体を

一編の「詩」として表現したところです。

これには、ほんとビックリしました。


説明が少なくて、余白たっぷり。

物語全体が韻を踏んでいて、同じパターンが繰り返される。

まるで、リズム感に長けた詩を読んでいるかのような、

心地よい映画体験が味わえます。

さすが、ジム・ジャームッシュ。映像詩人の本領発揮です。


パターソン。

彼の心は真っ白なキャンパスです。

ゆえに日常そのものが表現になる。

それが彼の見つけた、余白の作りかた。

では、あなたは?


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『パターソン』
DVD 3,800円+税
Blu-ray 4,800円+税
発売・販売元:バップ
© 2016 Inkjet Inc. All Rights Reserved.

映画選定・執筆

有坂塁
キノ・イグルー 
有坂塁
キノ・イグルーは、2003年に有坂塁が渡辺順也とともに設立した移動映画館。
東京を拠点に全国のカフェ、パン屋、酒蔵、美術館、 無人島などで、世界各国の映画を上映している。
さらに「あなたのために映画をえらびます」という映画カウンセリングや、
目覚めた瞬間に思いついた映画を毎朝インスタグラムに投稿する「ねおきシネマ」など、
大胆かつ自由な発想で映画の楽しさを伝えている。
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