毎朝、近所の公園をランニングしています。
かれこれ9年近く。
走るペースはコンディションによって違いますが、
池のまわりを大きく3周すると、だいたい30分ぐらい。
そのあとは、カモの親子を眺めたり、
散歩する犬にちょっかいを出したりと、
ベンチでボーッとする時間を大切にしています。
このトータル60分ぐらいの時間が、
ぼくの生活のルーティーンになっています。
このおだやかな時間に、スマホは持っていきません。
音楽も聴かない。自然の音に耳を澄ませながら、
無意識に感じているであろう日々のストレスから、
心と体を解放してあげます。
このような"余白"があるからこそ、
さまざまなアイデアが浮かんでくるし、
素敵な出会いにも恵まれるのだと思っています。
これが、ぼく自身の余白の作りかた。
ではそんなぼくが、
映画の中で最も"余白"を感じた作品はと言えば
それは『パターソン』ということになります。
アダム・ドライバーが演じた主人公の生き方もそうですし、
作品全体からも、詰め込みすぎない心地よさを感じたのです。
こんな内容。
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ニュージャージー州パターソンに住むバス運転手のパターソン。
彼の1日は朝、隣に眠る妻ローラにキスをして始まる。
いつものように仕事に向かい、乗務をこなす中で、
心に芽生える詩を秘密のノートに書きとめていく。
帰宅して妻と夕食を取り、愛犬マーヴィンと夜の散歩。
バーへ立ち寄り、1杯だけ飲んで帰宅しローラの隣で眠りにつく。
そんな一見変わりのない毎日。7日間のお話。
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本作がたまらなく素晴らしいのは、
いつもと変わらない日々を、美しさと愛に溢れた、
かけがえのない時間として描いたところ。
何にもない日なんてないし、
日々の移り変わりの中で感じることもたくさんある。
ゆるやかな変化に気付ける心さえあれば、
人生は何倍だって輝くんだよ!
というその人生観に、心の有り様に、
ぼくは激しく感動してしまいました。
もうひとつ驚いたことがあります。
それは、この『パターソン』という作品自体を
一編の「詩」として表現したところです。
これには、ほんとビックリしました。
説明が少なくて、余白たっぷり。
物語全体が韻を踏んでいて、同じパターンが繰り返される。
まるで、リズム感に長けた詩を読んでいるかのような、
心地よい映画体験が味わえます。
さすが、ジム・ジャームッシュ。映像詩人の本領発揮です。
パターソン。
彼の心は真っ白なキャンパスです。
ゆえに日常そのものが表現になる。
それが彼の見つけた、余白の作りかた。
では、あなたは?
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『パターソン』
DVD 3,800円+税
Blu-ray 4,800円+税
発売・販売元:バップ
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映画選定・執筆
キノ・イグルー
有坂塁
東京を拠点に全国のカフェ、パン屋、酒蔵、美術館、 無人島などで、世界各国の映画を上映している。
さらに「あなたのために映画をえらびます」という映画カウンセリングや、
目覚めた瞬間に思いついた映画を毎朝インスタグラムに投稿する「ねおきシネマ」など、
大胆かつ自由な発想で映画の楽しさを伝えている。
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