日本という国の残念ポイントの一つに、
"世代別でセグメントされすぎ"というのがあります。
この店は、若者向け。あの街は、高齢者の場所。
マーケティングというワードの一般化とともに、
この感覚は今や多くの人の深層心理に
当たり前のこととして影響を与えてしていますし、僕もそうでした。
でも例えばパリへ行ってみると、
カフェのカウンターで隣り合った老人と若者が普通に議論をしている。
映画館でも上映後のロビーで、世代を超えた交流が活発におこなわれている。
これが当たり前である国と、そうではない日本とでは、
おそらくあらゆることが違ってきているのだと思います。
筋は通っているけど、ワクワクしない。
そんなのイヤだ。
そのことにあらためて気付かされたのは、自らが主催するイベントである
東京国立博物館(トーハク)の野外シネマのときでした。
僕たちスタッフが座るブース近くに、
制服を着た女子高校生と、年配の女性が並んで座っていました。
どうやら2人は他人同士で、ともに1人での参加。
そんな世代を超えた2人が、
大きな星空のもとで上映される細田守監督『時をかける少女』(2006)を
観に来てくれただけでなく、
4,500人もの観客の中で、隣り合ってしまったわけです。
おまけに上映後には、親しげな雰囲気で言葉まで交わしていたりして…
その光景にグッと来てしまいました。
パリで感じた理想とする風景が、まさにそこにあったわけです。
そして、それから8年後。
今度は、トーハクと同じような光景を映画の中で観ることが出来ました。
芦田愛菜、宮本信子が共演した『メタモルフォーゼの縁側』。
どんな内容か。
まずは、こちらをご確認ください。
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うらら、17歳。毎晩こっそりBL漫画を楽しむ女子高生。
雪、75歳。夫に先立たれたひとり暮らしの老婦人。
ある日、ふたりは同じ本屋にいた。うららはレジでバイト。
雪はきれいな表紙に惹かれて漫画を手にとっていた。
それがBLだった。
初めての世界に驚きつつも、
男子たちが繰り広げる恋物語にすっかり魅了されてしまう雪。
そんなふたりがBLコーナーで出会ったとき、
それぞれ閉じ込めていたBL愛が次から次へと湧き出した。
それからは雪の家の縁側にあつまり、読んでは語りを繰り返すことに。
そして二人はある挑戦を決意する。
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とても優しくて、温かい作品です。
好きなものを共有することで育まれる、歳の差50歳を超える友情。
何歳になったって新しいことに出会えばワクワクするし、
自然と笑顔も増えてくるということを、
新旧の名女優である芦田愛菜と宮本信子が教えてくれます。
2人の掛け合いの場面は、全部が素晴らしく。
自信がないけど、人思いで、誠実なうららと、
一貫してうららの挑戦をあたたかく応援し続ける雪。
そんな2人がBL漫画について語っているシーンは、
どれも本当に楽しそうで、輝いていて、
愛おしい気持ちさえ湧き上がってくるほど。
好きなモノを純粋に、熱く、ただひたすらに愛することの尊さが、
2人の演技を通して心にじーんと伝わってきます。
"BL"には興味がないから…
と見逃してしまうには、あまりにも勿体ない超良作となっています。
願わくば、劇中と同じように、年齢差のある人同士で鑑賞できるといいですね。
観賞後は、どんな感想を語り合うことになるんだろう。
よろしければ、ぜひ。
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『メタモルフォーゼの縁側』
12月19日(水)発売
コレクターズ・エディション版: 7,480 円(税込)
通常版:4,180 円(税込)
発売元:日活 販売元:バップ
原作:鶴谷香央理「メタモルフォーゼの縁側」(KADOKAWA)
©2022「メタモルフォーゼの縁側」製作委員会
映画選定・執筆
キノ・イグルー
有坂塁
東京を拠点に全国のカフェ、パン屋、酒蔵、美術館、 無人島などで、世界各国の映画を上映している。
さらに「あなたのために映画をえらびます」という映画カウンセリングや、
目覚めた瞬間に思いついた映画を毎朝インスタグラムに投稿する「ねおきシネマ」など、
大胆かつ自由な発想で映画の楽しさを伝えている。
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