キノ・イグルーのイベントで、
戦前や60年代などのレトロアニメーションを上映するとき、
こんな話をよくします。
「面白かったでしょう?ワクワクしましたよね!
ところで、昔の作品と最近のアニメの大きな違いって、
みなさんわかるでしょうか?
それはズバリ、ワクワクするかどうかです。
昔のアニメは、技術が進歩していないため、絵のタッチこそ素朴ですが、
みんながみんな、アニメーションでしか表現できないことに
果敢にチャレンジしていた。
わかりやすい例でいうと、
『ルパン三世 カリオストロの城』の垂直の崖を車がびゅーって走るシーン、
あれはアニメならでは。実写ではできません。
デタラメだけど面白い、それがアニメの真骨頂です。
一方、最近のアニメーションというのは、"リアルさ"を追求しています。
『君の名は。』で言えば、人間の表情にとどまらず、
新宿の街の再現具合や水のきらめきまで、実写を観ているかのよう現実感。
でもアニメ、というこのギャップが面白いんですね」
とかなんとか、こんな感じのお話をしています。
これはどっちが良い悪いでなく、単なる好みの問題です。
でも1つだけ言えることは、昔のアニメの方が"余白"があった。
"余韻"があった。手仕事の暖かみがあった。
これらの要素が好きな方は、ぜひ一度レトロアニメを観てみてください。
中でもパワープッシュしたいのは、ロシアの巨匠ユーリ・ノルシュテイン作品です。
宮崎駿、高畑勲はじめ、世界中のアニメーション作家たちが尊敬する、
アート・アニメーション界の「神様」。
特に、絵本にもなっている『霧につつまれたハリネズミ』は、
キャラクター造形もふくめ、一瞬でトリコになってしまうこと間違いなしの逸品。
内容はいたってシンプル。こんな感じとなっています。
***
ハリネズミのヨージックは、
友だちの子グマの家でお茶を飲みながら星を数えるため、
夕暮れの野原を急ぎ足で歩いていた。
しかしいつの間にか周囲に霧が立ちこめ、ヨージックは様々な体験をする。
***
たった、これだけ。
そう、本作は長編でなく、10分の短編作品となっています。
にも関わらず、
「アニメーションの歴史の中で最高のアニメーション!」
とまで讃えられているのです。
なぜか。
それは、"映像の詩人"と呼ばれるノルシュテインが、
独自の手法を持って、オンリーワンの映像世界を作り上げたからだと思います。
まず、何と言っても絵がかわいい。
ハリネズミや子グマの愛らしいフォルムと、絶妙な表情。
そして大事そうにジャムを抱えている仕草と、
いちいち、すべてがかわいいんです。
ここだけとっても、
アニメーション史に残るレベルであることは間違いないでしょう。
さらに、これらのキャラクターは切り絵で出来ていて、
ひとコマ、ひとコマ撮影する"コマ撮り"で作られています。
だから、動きがぎこちなく、カタカタと動くんです。
この不自然な動きにまで、かわいいが貫かれています。
そして、とどめはマルチプレーンカメラ(多層式撮影台)。
これは、複数のセル画を異なる位置に配置して、
それぞれを異なるスピードで動かし、
3次元的な奥行きを生み出すことができるカメラのことです。
何層ものガラス面に切り絵を配置し、そこにくもりガラスをいくつも重ねて表現された
"霧につつまれたハリネズミの姿"は、ただただ感動的です。
ちなみに、ビョークとミシェル・ゴンドリー(エターナル・サンシャイン)という
超個性派の2人も本作のことが大好きだそうで、
「HUMAN BEHAVIOUR」のミュージックビデオでは、
彼らなりの『霧につつまれたハリネズミ』を作ってしまうほど、影響を受けています。
こちらは、YouTubeで見られると思うので、探して見てみてくださいね。
最後まで読んでいただき、スパシーバ。
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『ユーリー・ノルシュテイン作品集 2K修復版』
Blu-ray 5,800円+税
発売元:WOWOWプラス
販売元:KADOKAWA
※Blu-rayには「霧の中のハリネズミ(霧につつまれたハリネズミ)」を含む、全6作品を収録
映画選定・執筆
キノ・イグルー
有坂塁
東京を拠点に全国のカフェ、パン屋、酒蔵、美術館、 無人島などで、世界各国の映画を上映している。
さらに「あなたのために映画をえらびます」という映画カウンセリングや、
目覚めた瞬間に思いついた映画を毎朝インスタグラムに投稿する「ねおきシネマ」など、
大胆かつ自由な発想で映画の楽しさを伝えている。
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