まずは、自慢話をしてもいいでしょうか?
ぼくは昨年、小津安二郎映画に出てきそうな蕎麦屋で常連客として認定されました。
ここは知る人ぞ知る老舗で、そんな名店がありがたいことに家から徒歩数分圏内にあるのです。
そこの印象的な女将(無口なだけなのに、愛想が悪いとネットでディスられ気味)から、
注文する際に、こんなお言葉をいただいたのです。
「いつものでいい?」
これには感動しました。認められた気がしました。
ちなみに、いつものとは"三色そば大盛り"のことで、
ぼくは週3ぐらいのペースで食べ続けていました。
しかも決まってピークを過ぎた時間に訪れるため、いつも貸切状態。
そりゃ覚えてもらえるわけです。
でも、そんな女将さんのさりげないひと言のおかげで、
そのお店は、緊張感のある名店から、
親しみを感じる"ホーム"へと変貌したのです。
『映画 深夜食堂』は、そんな"ホーム"で過ごす人たちの悲喜こもごもを、
やさしい眼差しで描いた物語。
このお店の常連になってみたいのは、きっとぼくだけではないはず。
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繁華街の路地裏にある深夜営業の食堂「めしや」には、
マスターの料理と居心地の良さを求めて毎晩たくさんの人々が集まって来る。
誰かが店に忘れていった骨壷をめぐって常連たちが話に花を咲かせる一方、
愛人を亡くし新しいパトロンを探すたまこは、
店で出会った青年と意気投合する。
また、無銭飲食をきっかけに住みこみで働くことになったみちるは
徐々に店になじんでいくが、ある事情を抱えていた。
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この映画(ドラマ版ふくめ)のすばらしさは、何と言っても設定のよさ。
食堂としては異例の深夜0時から朝7時までという営業時間が面白いし、
メニューも豚肉定食とビールと日本酒と焼酎のみという潔さ。お酒は三杯まで。
ニーズに合わせるのでなく、店主の個性に共感した人たちが集まってくる。
加えて、店主に頼めば、
作れる範囲で何でも作ってくれるという柔軟性まであるのだから、
もはや敵なし。言うことなしです。
映画に登場する食べものは、ナポリタン、とろろごはん、カレーライス。
とりたてて珍しいものではないですが、
フードスタイリストの飯島奈美さんが手がけているだけあって、
どれもおいしそう!コの字型カウンターも素敵です。
ここの常連客は、お腹だけでなく、心も満たされて帰っていくんだろうなあ。
そしてもしかしたら、それこそが行きつけになる条件だったりするのかもしれません。
みなさんには"ホーム"と呼べる一軒はあったりするのでしょうか。
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『映画 深夜食堂 通常版』
DVD 4,800円+税
発売元:小学館/アミューズ/MBS
販売元:アミューズソフト
(C)2015安倍夜郎・小学館/映画「深夜食堂」製作委員会
映画選定・執筆
キノ・イグルー
有坂塁
東京を拠点に全国のカフェ、パン屋、酒蔵、美術館、 無人島などで、世界各国の映画を上映している。
さらに「あなたのために映画をえらびます」という映画カウンセリングや、
目覚めた瞬間に思いついた映画を毎朝インスタグラムに投稿する「ねおきシネマ」など、
大胆かつ自由な発想で映画の楽しさを伝えている。
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