2018年3月31日、
桜舞い散る井の頭公園のベンチで、この原稿を書いています。
目の前には、たくさんのお花見客が。
おおきな犬を連れた家族は、トトロの曲を歌いながらドーナツを食べています。
そのとなりには『七人の侍』ならぬ真っ赤な顔をした7人のおじさんが、
開幕したばかりのプロ野球順位予想をしています。
その奥には、30人近くいそうな学生の集団が。
ボーッと眺めているだけで、涙がこぼれそうになる愛おしい風景。
そんな桜の季節になると毎年思い出すのが、
岩井俊二監督の映画『四月物語』です。
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4月、桜の季節。
北海道から上京した卯月は、東京・武蔵野の大学に通うため、
慣れない土地で独り暮らしを始める。
おとなしい性格の彼女は、変わった性格の友人やアパートの隣人など、
個性の強い人々と触れ合っていく。
だが、そんな卯月も大学の志望動機を聞かれた時だけは、
思わず言いよどんでしまう。
実は、卯月には人に言えない理由があったのだった…
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桜のシーンは、映画がはじまってすぐ。
雨のようにふりそそぐ桜吹雪のなかを歩く、白無垢の花嫁。
引っ越し作業をしている窓の外には、はらはらとしとやかに舞う桜吹雪。
こんな素敵な桜のシーンがオープニングにあることで、
映画全編を桜がつつんでくれている印象になります。
新しいアパート、新しい学校、新しい自転車、
そして桜の花びらが舞う、新しい風景。
春という季節への期待や不安を一編の詩のように描いた、
ぜひこの季節に観ていただきたい1本です。
井の頭公園も、すっかり日が落ちて、肌寒くなってきましたので、
この辺りで筆を置きたいと思います。
みなさま、素敵な春を。
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『四月物語』
Blu-ray 3,800円(税別)
発売・販売元:ノーマンズ・ノーズ
(C)1998 ROCKWELL EYES INC.
映画選定・執筆
キノ・イグルー
有坂塁
東京を拠点に全国のカフェ、パン屋、酒蔵、美術館、 無人島などで、世界各国の映画を上映している。
さらに「あなたのために映画をえらびます」という映画カウンセリングや、
目覚めた瞬間に思いついた映画を毎朝インスタグラムに投稿する「ねおきシネマ」など、
大胆かつ自由な発想で映画の楽しさを伝えている。
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