キノ・イグルーの週末シネマ​ no.66
月世界旅行|秋の夜長に月を想う美しい月が印象的な映のカバー画像

月世界旅行|秋の夜長に月を想う美しい月が印象的な映画

文:キノ・イグルー 有坂塁

月世界旅行|監督:ジョルジュ・メリエス(1902年・フランス)

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2018年09月21日作成



中秋の名月のこの時期に、

静岡県御殿場市の和菓子店「とらや工房」での野外シネマで、

『月世界旅行』を上映したことがあります。


これがとても贅沢な内容で、

まず「とらや工房」にて、地元の名店による懐石料理をお楽しみいただきます。

さらに食後には、とらやの和菓子とお茶が。

そして、心がほぐれはじめてきた頃、いよいよ、映画の時間となります。


暗がりの日本庭園を、参加者みんなで歩いて会場へ。

空を見上げれば、まん丸のお月様。

まるで夢のようなシチュエーションです


会場となる芝生にはシートが敷いてあり、

みなさん、そこに足を伸ばして座っていただきます。

そしていよいよ、『月世界旅行』のはじまりはじまり。


***


天文学会に所属する6人の学者たちは、

かねてよりの念願だった月旅行の計画を実行に移すことにする。

彼らは地球から打ち上げられた砲弾に乗り、ついに月面への到着を果たすが、

そこにはこれまで目にしたことのない奇妙な風景が広がっていた。

よろこび勇んで月の探索を開始したものの、

学者たちはその途中で異星人に襲われ、

あっという間に生け捕りにされる…


***


おもちゃ箱をひっくり返したように展開される、メリエスの空想世界。

機械仕掛けやミニチュアという美術をはじめ、

コマ落としやスローモーションといったトリック撮影も駆使して作られた、

映画史上初となるSF作品です。

上映時間はたったの16分ですが、当時としては長尺だったのだそう。


この作品を観ていると、

作り手側が新たなチャレンジを楽しんでいるのがビンビン伝わってきて、

観ているこちら側までワクワクしてきます。

何かお祭り感があるといいますか。


まあ今回のテーマを真正面から考えれば、

『アース』などのネイチャードキュメンタリーを選ぶのが妥当でしょう。

それでも本作を選んだのは、

人類がまだ宇宙に行ったことがない時代の作品だから。

だって彼らは、月がどんな特徴を持っているのかもわからなかったわけです。


そんな月そのものへの憧れを、想像力を使って表現しようなんて、

本当に素敵すぎます。ロマンがある。

ということで個人的には、映画の世界において、

これより美しい月は、後にも先にも存在しないと思うのです。


どんな月になっているかは、もちろん、観てからのお楽しみ。

そしてせっかく観るなら、お月見菓子なども用意して、

ベストな環境でお楽しみください。

それが月を夢見た製作者たちへの、最高の恩返しになるかと思うので。


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『ジョルジュ・メリエスの月世界旅行 他三編【映画創世期短編集】』
DVD 1,886円+税
発売・販売元:有限会社フォワード

映画選定・執筆

有坂塁
キノ・イグルー 
有坂塁
キノ・イグルーは、2003年に有坂塁が渡辺順也とともに設立した移動映画館。
東京を拠点に全国のカフェ、パン屋、酒蔵、美術館、 無人島などで、世界各国の映画を上映している。
さらに「あなたのために映画をえらびます」という映画カウンセリングや、
目覚めた瞬間に思いついた映画を毎朝インスタグラムに投稿する「ねおきシネマ」など、
大胆かつ自由な発想で映画の楽しさを伝えている。
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