「最も現代的かつ自由な芸術で、
映画の既成概念を破壊したフランス映画界のマスター。
私たちは、国の宝たる天才を失ってしまった」
こちらは、ジャン=リュック・ゴダール監督の訃報を受け、
フランスのマクロン大統領が投稿したツイートになります。
歴史上もっとも偉大な映画作家。
映画史に燦然と輝くシネアスト。
映画界のピカソ。
彼を形容する言葉はいくつでも出てきます。
映画史は「ゴダール以前」「ゴダール以後」で変わったといわれるほど、
その影響力は絶大なるものがありました。
特に、伝説となった長編デビュー作『勝手にしやがれ』(1959) では、
撮影所システムに背を向け、
勢いそのままにパリの街で映画制作をおこないます。
通常であれば、許可取りをしてから撮影に臨むところを、
天才ゴダールはパリの日常に役者を放り込み、
手持ちカメラのゲリラ撮影で、
これまでの映画にはなかった"瑞々しさ"を獲得します。
さらには、編集の段階でジャンプカットという斬新な技法を用いて
(シーンの連続性を無視してカットを繋ぎ合わせること)、
映画の文法をも変えてしまったのです。
そんな偉人の知られざるストーリーを描いたのが、
今回紹介する『グッバイ、ゴダール!』。
まずはストーリーからご確認ください。
***
もうすぐ20歳のアンヌは、
それまで予想だにしなかった刺激的な日々を送っていた。
世界中から注目される気鋭の映画監督ジャン=リュック・ゴダールと恋に落ち、
彼の新作『中国女』の主演を飾ることになったのだ。
新しい仲間たちと映画を作る刺激的な日々、
そしてゴダールからのプロポーズ。
初体験ばかりの毎日を彼女は夢中で駆け抜けていくが、
1968年の五月革命が2人の運命を変えていく―
***
この映画には、じつは原作が存在します。
フランスの女優、小説家、映画監督のアンヌ・ヴィアゼムスキーが綴った
自伝的小説「それからの彼女」。
のちに彼女は、ゴダールの2番目の妻となるわけですが
(ひとり目はアンナ・カリーナ)
そんな2人の出会いや幸福だった時間、
その先に待ち受ける運命まで、
2人のプライベートな部分を、本作では赤裸々に描いています。
「今をときめく映画監督。
風変わりだけど、唯一無二の天才が私だけを見てる。」
このラブコメを思わせる若者女子目線を描けたことで、
本作は"自伝的要素と青春映画"の掛け合わせとして、
とても魅力的な1本になったような気がします。
また、ゴダールのプライベートな姿が面白く。
謎のベールに包まれた天才…と言いたいところですが、
傲慢で、陰険で、嫉妬深くて、わがままで、偏屈という、
イメージ通りの人物すぎて、もはや笑えてきます。
でも一方、人間的なゴダールの姿に、
ホッとした気持ちが生まれたことも確かです。
(スクリーンで見ている分には、という条件付きですが)
かつて糸井重里さんは、こんな名言を残しました。
「過剰に何かが欠けているのも才能のうち」
まさにゴダールにも当てはまる、素敵な言葉ですよね。
そんな同時代を駆け抜けた偉人のあれこれを、
ぜひとも『グッバイ、ゴダール!』から感じ取ってみてくださいね。
そして気に入った方には、
四方田犬彦による著書「ゴダールと女たち」(講談社現代新書)も
合わせておすすめしたいと思います。
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『グッバイ・ゴダール!』
DVD 1,257円(税込)
発売・販売元:ギャガ
(C)LES COMPAGNONS DU CINÉMA – LA CLASSE AMÉRICAINE – STUDIOCANAL – FRANCE 3.
映画選定・執筆
キノ・イグルー
有坂塁
東京を拠点に全国のカフェ、パン屋、酒蔵、美術館、 無人島などで、世界各国の映画を上映している。
さらに「あなたのために映画をえらびます」という映画カウンセリングや、
目覚めた瞬間に思いついた映画を毎朝インスタグラムに投稿する「ねおきシネマ」など、
大胆かつ自由な発想で映画の楽しさを伝えている。
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