キノ・イグルーの週末シネマ​ no.112
打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?|わくわく感がたまらないとっておきの夏休のカバー画像

打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?|わくわく感がたまらないとっておきの夏休み

文:キノ・イグルー 有坂塁

打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?|監督・脚本:岩井俊二(1993年・日本)

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2019年08月09日作成



海水浴。盆踊り。スイカ割り。きもだめし。甲子園。

いくつもある夏の風物詩ですが、

ぼくたちの開催する「野外シネマ」も今年で11年目を迎えたこともあり、

そろそろ風物詩のひとつして認めてもらえないかなぁ、

認めてもらえたらうれしいなぁ、

なんてことを、最近、思ったりしています。


しかし、大人からこどもまでが楽しみにしている夏の風物詩となると、

やっぱり「花火」ということになるでしょう。

ぼく自身も花火は大好きですが、

自らの「野外シネマ」と日程が重なってしまうため、

ここ10年ほど、花火大会には行けておりません。


その代わりに毎年楽しみにしているのが、

映画『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』を

この時期に鑑賞するということ。

いま映画と書きましたが、

正確にはフジテレビで放送されたテレビドラマ作品。

その放送が話題を呼び、

テレビドラマとしては異例の日本映画監督協会新人賞を受賞し、

一躍、岩井俊二は時代の寵児となったのです(のちに劇場公開もされました)


ノスタルジックな夏のお話。

45分間の小品。

物語はこんな感じです。


***


小学生の典道と祐介は仲の良い友達だが、

実は2人とも同級生のなずなの事が好きだった。

しかしなずなの両親が離婚し、

彼女が母親に引き取られて二学期から転校することになっているとは、

2人には知るよしもなかった。

親に反発したなずなは、プールで競争する典道と祐介を見て、

勝った方と駆け落ちしようとひそかに賭けをする。

勝ったのは祐介か?典道か?


***


この映画の魅力は、大きくふたつあります。

まずは、物語の構成です。

「もしも」をテーマにしたこのお話は、プールの競争ののち、

下に書いたきっかけから二つの物語へと展開します。


◆Aパート
「順調に泳ぐ典道だったが、プールのヘリに足をぶつけて負けてしまう」

◆Bパート
「足をぶつけることなく勝った典道」


ここを分岐点に、物語は友情か恋愛かという究極の選択を典道に迫ります。

男友だちの考えた「打ち上げ花火は横から見たら丸いのか?平べったいのか?」も知りたいし、

大好きななづなと駆け落ちもしたい。

そんな胸キュンストーリーを、

岩井俊二は語り口の面白さをもってあざやかに描くのです。


そしてふたつ目の魅力とは、映像から感じる"夏のムード"。

花火、夜のプール、蝉の鳴き声、浴衣、夏祭りに始まり、

コントラストの強い光の加減や、子どもたちの日焼け具合まで、

もう「完璧!」と言いたくなるほどに、

夏のムードが閉じ込められた"夏休み映画"となっているのです。


岩井俊二という人は、この"季節感"を映像化するのが本当にうまい。

もはや名人芸。

だって、春や冬になると『四月物語』や『Love Letter』のことを

自然と思い出しますものね。


『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』は、

ぜひ、記録的な猛暑がつづくこの夏に、ぜひ観ていただきたい一作です。


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『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』
DVD 3,800円(税別)
発売・販売元:ノーマンズ・ノーズ
©1996 ROCKWELL EYES INC.

映画選定・執筆

有坂塁
キノ・イグルー 
有坂塁
キノ・イグルーは、2003年に有坂塁が渡辺順也とともに設立した移動映画館。
東京を拠点に全国のカフェ、パン屋、酒蔵、美術館、 無人島などで、世界各国の映画を上映している。
さらに「あなたのために映画をえらびます」という映画カウンセリングや、
目覚めた瞬間に思いついた映画を毎朝インスタグラムに投稿する「ねおきシネマ」など、
大胆かつ自由な発想で映画の楽しさを伝えている。
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