5月で、45歳になります。
あらためて振り返ると、40という年齢は節目の歳だったなと、最近よく感じます。
成人式のときより、よっぽど。
親に仕送りをしてもらっていた学生の身から、
いまは、自らの想いと意思で形にした"移動映画館"を生業としている。
当時と比べたら、楽しみも責任も覚悟も、何から何まで違っています。
人前でしゃべることもあれだけ嫌がっていたのに、
いまでは、トークショーを自ら企画している。
でもこれは、急に変わったわけではなく、小さな選択を積み重ねたにすぎないんですね。
望めば、ゆっくりと変わることができる。
そう考えたら、歳を重ねるって何と素敵なことだろう!と思うのです。
さあ、次はここからの20年、60歳までの人生をどうデザインしていこうか。
そんなことを考えていたときに出会えたのが
『シーモアさんと、大人のための人生入門』。
"大人の人生入門"という言葉にビビッときたぼくは、
早速、シネスイッチ銀座まで足を延ばすことにしたのです。
奇跡的なタイミングに、こころ踊りながら。
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人生の折り返し地点――
アーティストとして、一人の人間として行き詰まりを感じていたイーサン・ホークは、
ある夕食会で当時84歳のピアノ教師、シーモア・バーンスタインと出会う。
たちまち安心感に包まれ、シーモアと彼のピアノに魅了されたイーサンは、
彼のドキュメンタリー映画を撮ろうと決める。
シーモアは、50歳でコンサート・ピアニストとしての活動に終止符を打ち、
以後の人生を"教える"ことに捧げてきた。
ピアニストとしての成功、朝鮮戦争従軍中のつらい記憶、
そして、演奏会にまつわる不安や恐怖の思い出。
決して平坦ではなかった人生を、シーモアは美しいピアノの調べとともに語る。
彼のあたたかく繊細な言葉は、すべてを包み込むように、
私たちの心を豊かな場所へと導いてくれる。
***
シーモアさんは、話し方が丁寧で、褒め上手。
時には厳しいことも言うけど、相手の心に寄り添うように、やさしく言葉を紡いでくれます。
生徒を鼓舞し、感情的な反応を引き出そうとする。
自らの経験を押し付けようとしないそのスキルには、感心するばかりです。
さらに"言葉力"がとても高く、ここぞというタイミングで金言が飛び出します。
これは一例をご紹介してみますね。
「人生には衝突も喜びもハーモニーも不協和音もある、それが人生だ。避けて通れない。
だが解決の素晴らしさを知るには不協和音がなくてはならない」
「私の年齢になると、ごまかしを一切やめる。
人にウソを言わなくなり、自分の心のままを語るようになる。
相手が喜ぶことを言うのではなく、真実を言うことこそが、
相手にとって最高の褒め言葉だと分かる」
どうですか?哲学的で、心に沁みますよね。
自分を知り、こころの声をきいて、人生の豊かさを見つけてゆく。
シーモアさんは音楽を通して、真理にたどり着いた人なのだと思います。
そして、こんなに素敵な人を
「世界中の人とシェアしたい!」と思ってくれたイーサン・ホークにも感謝です。
SNSなどではなく、作品化したところに
彼の溢れんばかりのクリエイティビティを感じ、
ますます大好きになってしまいました。
メンターの力は、偉大なり。
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『シーモアさんと、大人のための人生入門』
DVD 3,800円+税
発売元:アップリンク
販売元:ポニーキャニオン
© 2015 Risk Love LLC
映画選定・執筆
キノ・イグルー
有坂塁
東京を拠点に全国のカフェ、パン屋、酒蔵、美術館、 無人島などで、世界各国の映画を上映している。
さらに「あなたのために映画をえらびます」という映画カウンセリングや、
目覚めた瞬間に思いついた映画を毎朝インスタグラムに投稿する「ねおきシネマ」など、
大胆かつ自由な発想で映画の楽しさを伝えている。
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