たったの2時間で、秘境の地までひとっ飛び。
これも映画を鑑賞する楽しみのひとつです。
たとえば、『きっと、うまくいく』のラストシーン。
ここで登場するインドの"天空の湖"と呼ばれるパンゴンツォは、
乾いた山と空と湖のコントラストが、この世の果てのような美しさで描かれていました。
アイスランドの絶景が堪能できるのは、ベン・スティラー監督・主演作『LIFE!』。
中でも、広大な大地をスケボーで滑走するシーンは観た人の心に特大のインパクトを残します。
こちらはグルンダルフィヨルズルという小さな村だそう。
ハリソン・フォード主演のサスペンス『刑事ジョン・ブック 目撃者』では、
現代技術の導入を拒み、自給自足の生活をするアーミッシュたちのライフスタイルが、
物語と並行しながら丁寧に描かれています。
ここ数年で、立て続けに観ることができたのは、中国の雲南省。
あまり馴染みのない少数民族たちの物語を『雲南の少女 ルオマの初恋』(2002) や
『雲南の花嫁』(2005) などで楽しむことができるのですが、
この"雲南省もの"の最大の見どころは、言葉にならない美しい民族衣装の数々。
頭のてっぺんからつま先までトータルコーディネイトされたカラフルな衣装とアクセサリー。
その迫力に、あなたは心を奪われてしまうはず。
そして、今回ご紹介する『雲南COLOR FREE』は、
その民族衣装のみにフォーカスを当てた異色のドキュメンタリー。
監督のキム・スンヨンは、本作の内容をこのように紹介しています。
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日本を含め、どこの国でもタンスの中には素晴らしい民族衣装があります。
しかし雲南省の民族衣装は今でも流行の変遷が生きているのです。
誰かがやり始めたキラリと光る新しいセンスはまわりがまねして流行となり、
洗練に洗練を重ねやがて民族の主流にまで上り詰めます。
そうやって各民族のテイストがはっきりと分かれていきます。
雲南省の最新モードをチェックすると服を「作るセンス」とその広がりに感動します。
この作品は民族衣装の流行通信です。
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どうです?気になりますよね。
こちら、ストーリーは一切ありません。
言うならば、民族衣装のファッションショーといった趣の作品になっています。
登場する部族は、9つ。
イ族、ミャオ族、タイ族、ハニ族、アール族、ヤオ族、サニ族、チュワン族、モチ族。
それぞれの衣装にはメインカラーがあり、ディテールのテイストもそれぞれ異なります。
細かい柄を組み合わせたパステルカラーがベースの衣装もあれば、
黒&無地のセットアップに差し色でピンクを使ったりする、現代的な衣装もあったりとさまざま。
そんなアヴァンギャルドな民族衣装を、字幕やナレーションなどの説明を使わず、
いさぎよく"映像×音楽"だけで観せてくれところがカッコいいんです。
作り手の真摯な想いも感じます。
しかもその音楽は、BOREDOMSのYOSHIMIOによるオリジナルサウンドで、
キム・ゴードン(元ソニック・ユース)までもがゲスト参加という豪華さなのだから、
これ以上、何も言うことはありません。とにかく観てみてください。
それに合わせて、雲南省が舞台の映画作品にもチャレンジしていただくと、
この地域のことがより立体的に理解できるようになるので、おすすめです。
たったの43分間で、中国・雲南省までひとっ飛び!
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『雲南COLOR FREE(DVD&CD)』
定価 3,850円(税抜)
※こちらのアルバムに「雲南COLOR FREE」本編を収録。Amazon等にて取り扱いあり。
映画選定・執筆
キノ・イグルー
有坂塁
東京を拠点に全国のカフェ、パン屋、酒蔵、美術館、 無人島などで、世界各国の映画を上映している。
さらに「あなたのために映画をえらびます」という映画カウンセリングや、
目覚めた瞬間に思いついた映画を毎朝インスタグラムに投稿する「ねおきシネマ」など、
大胆かつ自由な発想で映画の楽しさを伝えている。
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