3月に入り、気温も上昇。
春の訪れを感じる日が増えてきました。
やわらかな風が肌に触れ。
鳥のさえずりに心が躍り。
草木や花々に癒される。
近所の井の頭公園でも、春の花である梅を愛でては、
隣の人を気遣いながら写真に収める、という光景をたくさん目にします。
春の訪れに心が喜ぶのは、そこに未来を感じるからで、
今年はそのありがたみを、より一層強く感じます。
厳しい冬から、あたたかな季節への第一歩。
そしていよいよ、
春の訪れを告げるファンファーレ"桜の開花"が間近となりました。
ゆっくりとお花見をすることは難しそうですが、
それでも今年なりに楽しみたいものですね。
そんな限られた期間でキレイに咲き誇る"桜"を、
ぜひ映画でもお楽しみいただきたく、
今回は『秒速5センチメートル』をご紹介したいと思います。
『君の名は。』で名を上げたヒットメイカー新海誠監督が、
2007年に製作した連作アニメーション。
僕が本作を東京国立博物館の野外シネマで上映した際には、
何と1日で6500人も集まったほど、高い人気を誇る名作となっております。
内容はというと…
こんな感じになっています。
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第1話「桜花抄」
互いに思いあっていた貴樹と明里は、
小学校卒業と同時に明里の引越しで離ればなれになってしまう。
中学生になり、明里からの手紙が届いたことをきっかけに、
貴樹は明里に会いにいくことを決意する。
第2話「コスモナウト」
やがて貴樹も中学の半ばで東京から引越し、
遠く離れた鹿児島の離島で高校生生活を送っていた。
同級生の花苗は、ほかの人とはどこか違う貴樹をずっと思い続けていたが……。
第3話「秒速5センチメートル」
社会人になり、東京でSEとして働く貴樹。
付き合った女性とも心を通わせることができず別れてしまい、
やがて会社も辞めてしまう。
季節がめぐり春が訪れると、貴樹は道端である女性に気づく。
***
小学校の卒業と同時に離ればなれになった遠野貴樹と篠原明里の姿を、
リリカルに綴った全3話で、上映時間は計63分となっています。
"秒速5センチメートル"とは、桜の花びらが落ちる速度のこと。
「つかもうと手を伸ばせば、すれ違ってしまう」、
そんなもどかしい想いをタイトルに込めたことからもわかる通り、
本作は、言葉にできない"詩的"な魅力に溢れています。
桜吹雪の様に心を彩り、雪の様に積もる想い。
新海誠は、理屈ではなく、季節の空気感などで切なさを演出します。
画のタッチは柔らかく、
どのシーンを切り取っても惚れ惚れするような美しさ。
桜、雪、星空。
いずれも、ため息ものです。
引き込まれるほどに素晴らしい。
いま思えば、新海作品のトレードマークにもなっている"映像美"は、
この作品への評価が決定打だったようにも思います。
さらに見どころを、もうひとつ。
本作には、アニメーション映画史上屈指と言ってもいい名シーンが入っています。
観た人なら同意してくれるであろう、終盤のあの場面。
主人公が体験してきた切ない記憶の数々が
フラッシュバックでよみがえるシーンに、
みなさんが知っている"あの名曲"が、
バシッと、フルボリュームで流れるのです…
ここはもう、涙なしでは観られません。鳥肌も止まりません。
ぼくは号泣でした。
『君の名は。』がピンと来なかったという人にも、ぜひ観てもらいたい!
それほど格別なアニメーションだと、個人的には思っています。
桜の開花宣言に合わせて鑑賞すれば、気持ちはより高まりますし、
2021年の春も、特別なものになるはずなので。
(注)くれぐれも"あの名曲"の下調べはせず、ご鑑賞ください。
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『秒速5センチメートル』
Blu-ray 5,500円+税
発売・販売元:コミックス・ウェーブ・フィルム
© Makoto Shinkai / CoMix Wave Films
映画選定・執筆
キノ・イグルー
有坂塁
東京を拠点に全国のカフェ、パン屋、酒蔵、美術館、 無人島などで、世界各国の映画を上映している。
さらに「あなたのために映画をえらびます」という映画カウンセリングや、
目覚めた瞬間に思いついた映画を毎朝インスタグラムに投稿する「ねおきシネマ」など、
大胆かつ自由な発想で映画の楽しさを伝えている。
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