いい映画の条件のひとつと言ってもいい、
"知らない感情"に出会える、ということについて。
心を晴れやかにしてくれるハッピーエンドは、
誰がなんと言おうと素晴らしいし、いつだって観ていたい!
実際に本数だって多いし、みんな大好きです。
でも俯瞰して見てみると、
それは映画という小宇宙の一部でしかありません。
多種多様な映画がある中で、
ハッピーエンドだけに価値を求めてしまうのは、
もったいないし、ちょっと怖くもあります。
気候変動や経済、ウィルスも含め、
想定外が当たり前になってくる、これからの時代を安心して過ごすためにも、
感情の引き出しを増やしておくことが大事かと。
特に、喜怒哀楽の"怒と哀"の部分。
不条理、無理解、不気味さ、残酷さ。
ゾワっとする言葉ばかりですが、
これも立派な人間の感情、感覚です。
「ヘビーな内容の映画は引きずるからな~」
という気持ちは理解できます。100%同意。
でもそこから学べることもたくさんあると思うのです。
そこでぜひ、オススメしたい作品が『スリー・ビルボード』。
今回のテーマである"人間の心の深淵を覗き込む"をまさに体現したような一作。
2010年代を代表するレベルの傑作。
個人的にも2018年の断トツベスト1に選出した思い出深い逸品です。
どんな内容か?
ストーリーは、こんな感じとなっています。
***
アメリカのミズーリ州の田舎町を貫く道路に並ぶ、3枚の広告看板。
そこには、地元警察への批判メッセージが書かれていた。
7カ月前に何者かに娘を殺されたミルドレッドが、
何の進展もない捜査状況に腹を立て、警察署長にケンカを売ったのだ。
署長を敬愛する部下や、町の人々から抗議を受けるも、
一歩も引かないミルドレッド。
町中が彼女を敵視するなか、次々と不穏な事件が起こり始め、
事態は予想外の方向へと向かい始める…
***
この映画には、本当にビックリしました。
よくあるサスペンスとして物語は始まるものの、
時間の経過とともに様相が変化していきます。
復讐劇、家族ドラマ、コメディー、アクションと、
映画のあらゆるジャンルを横断しながら、作品のムードがどんどんと変化します。
こちらの予想をはるかに超える、先行きの読めない展開。
しかもこの複雑さは、人間の描き方にまで反映されています。
単純な〈善悪〉二元論ではなく、どちらも内包した複雑な人間ばかりが登場。
「かわいそう」と感情移入していたはずの人が、次のシーンではとんでもない行動を!
なんてことが、何度も起きます。
そんなキャラクターをベースに、
スリルと笑い、愛と憎しみ、寛容と不寛容など、
相反するテーマをいくつも散りばめることで、
じわーっと、人間の"心の深淵"が
あぶり出されるような構成になっているのです。
こんな作品、観たことありません!
役者もみんな素晴らしいですが、
アカデミー助演男優賞に輝いたサム・ロックウェルの演技には、特に注目を!
これは、『ユージュアル・サスペクツ』のケビン・スペイシーを思い出させる、
映画史に残る名演だと個人的には思います。魂揺さぶってきます。
最後に。
ネタバレになるので詳しいことは書けませんが、
ぜひ、オレンジジュースを飲みながら鑑賞してください。
というより、必ずお願いします。
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『スリー・ビルボード』
DVD 1,905円+税
ウォルト・ディズニー・ジャパン
©2018 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved.
映画選定・執筆
キノ・イグルー
有坂塁
東京を拠点に全国のカフェ、パン屋、酒蔵、美術館、 無人島などで、世界各国の映画を上映している。
さらに「あなたのために映画をえらびます」という映画カウンセリングや、
目覚めた瞬間に思いついた映画を毎朝インスタグラムに投稿する「ねおきシネマ」など、
大胆かつ自由な発想で映画の楽しさを伝えている。
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