『裁かるるジャンヌ』と出会ったのは、
ジャン=リュック・ゴダール監督作『女と男のいる舗道』(1962) の劇中劇としてでした。
1960年代フランス映画界の象徴と言ってもいい
ゴダールとアンナ・カリーナによる、
美しくも残酷で哲学的なアート作品。
家庭を捨て、女優になる夢にも敗れ、
娼婦に身を堕とした女性ナナを主人公にした12のエピソード。
ゴダール自身が
「人間の存在を顔に集約した肖像画のような映画を撮りたかった」と言うように、
この映画のすべてはアンナ・カリーナという女優/女性の美しさを映し出すためにあります。
タイトルバックの横顔のシルエット。
ビリヤード場で陽気にダンスをする姿。
自分の手幅で身長を計るキュートなシーン。
そしてパリの映画館で、
大粒の涙をこぼしながら『裁かるるジャンヌ』を観るアンナ。
ここはまさに、映画史に残る名シーンです。
この息を飲む美しい場面に惹きつけられ、
僕はサイレント映画の金字塔とまで言われる
『裁かるるジャンヌ』の存在を初めて知ることとなったのです。
ストーリーは、至ってシンプル。
こんな感じになっています。
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ジャンヌ・ダルクは、百年戦争で祖国の地を解放に導く。
しかし、敵国での異端審問で司教からひどい尋問を受けることとなり…
裁判にかけられた彼女が一生獄中で生きながらえるのを潔しとせず、
自ら進んで火刑に処せられていく姿を、
崇高なタッチで描いたサイレント映画の到達点的な作品。
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何度も映画化されている、聖女ジャンヌ・ダルクの物語。
誰もが聞いたことがあるだろう、ということでこの映画は、
物語全体への興味よりも、
カール・Th・ドライヤーの素晴らしいカット構成によって感動がもたらされる作品、
と言った方がいいかもしれません。
驚きなのが、ほぼ全編、顔のクローズアップで構成されている点。
97分もあるのに!
ジャンヌ・ダルク、裁判官たち、聖職者たちの…
顔、顔、顔、顔、顔!
それぞれの内面や思惑を描き出すかのようにクローズアップされる顔、
その特徴的な手法は、何といってもジャンヌの"目"を際立たせます。
大きく見開いた目、涙を流す目、絶望の目、かすかな希望を託す目…
顔が全てを物語っているので、言葉は僅かで十分なのです。
これぞ、サイレント映画の極み。
そして時空を超え、
ジャンヌのクローズアップで映し出された涙は、
アンナ・カリーナの涙する顔のクローズアップへとつながっていくのです。
1928年の美しき白黒映画と、1962年の美しき白黒映画。
ぜひ合わせて、お楽しみになってみてください。
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『裁かるるジャンヌ 2Kレストア版』
Blu-ray 5,280円(税込)
発売元:アイ・ヴィー・シー
※『女と男のいる舗道』は2020年2月21日の週末シネマでご紹介しています。よろしければあわせてご覧ください。
映画選定・執筆
キノ・イグルー
有坂塁
東京を拠点に全国のカフェ、パン屋、酒蔵、美術館、 無人島などで、世界各国の映画を上映している。
さらに「あなたのために映画をえらびます」という映画カウンセリングや、
目覚めた瞬間に思いついた映画を毎朝インスタグラムに投稿する「ねおきシネマ」など、
大胆かつ自由な発想で映画の楽しさを伝えている。
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