キノ・イグルーの週末シネマ​ no.127
バベットの晩餐会|寒い日にどうぞあったかスープのある風のカバー画像

バベットの晩餐会|寒い日にどうぞあったかスープのある風景

文:キノ・イグルー 有坂塁

バベットの晩餐会|監督・脚本:ガブリエル・アクセル(1987年・デンマーク)

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2019年11月22日作成



スープのすばらしさを教えてくれた友人が、先日亡くなりました。


同い年の彼女と知り合ったのは、16年前の春。

ぼくは映画上映、彼女はフードコーディネーターと、

それぞれのキャリアを歩み始めたばかりのときで、

世の中にはいまほど"イベント"や"ワークショップ"がなかった、

そんな時代でした。

初対面のとき、互いに好きなことが見つけられたよろこびを

前のめりのテンションで語り合ったことを、昨日のように覚えています。


彼女は、スープ作りの天才。

ぼくたちとのイベントでは、

「映画+スープ」という定番のコラボレーションで、

ぼくの選んだ映画に寄り添ってくれるようなスープを

彼女が用意してくれました。


ジンジャーミネストローネ、ボルシチ、ポタージュ、

クラムチャウダー、ミルクスープ、

夏にはアンダルシアの冷製スープ・ガスパチョを作ってくれたり。


上映した映画は、『チェブラーシカ』にはじめ、

『ピーターラビットと仲間たち/ザ・バレエ』や、

佐藤雅彦さんの短編集『kino』、

ジャック・タチの喜劇『プレイタイム』もあれば、

『ブランカニエベス』というスペイン産のモノクロ・サイレント映画も上映しました。

そして、いま気が付いたのですが、

もしかしたらぼくは彼女に喜んでもらえるよう

毎回映画を選んでいたのかもしれません。


『バベットの晩餐会』を上映することはついに叶わなかったですが、

ぼくたちが「ベストグルメ映画だよね!」と盛り上がった、

ぜひとも多くの人に観てもらいたい傑作です。

こんな内容。


***


19世紀後半、デンマークの小さな漁村で

牧師だった父の遺志を継ぎ慎ましく生きる初老の姉妹。

ある日、彼女たちのもとにひとりのフランス人女性がやってくる。

パリ市の動乱(パリ・コミューン)で家族を失ったバベット。

彼女はメイドとして姉妹に仕えるが、

ある日偶然買った宝くじで大金を手にする。

かつてパリのレストランの名シェフだったバベットは、

賞金を使って豪華なディナーを計画するが…


***


圧巻なのは、クライマックスのディナーシーン。

フレンチのフルコースをキッチンで調理しているところから、

一品一品、おいしそうに味わっているシーンを、

20分かけて見せてくれます。


このフルコースが、どれだけ豪華なのか。

イメージが掴みづらいと思うので、

いまのレートに置き換えて考えてみます。


ディナーでかかった総額は、一万フラン。

(「12人分のお料理は一万フラン」というセリフが出てきます)

2019年11月18日のレートは、1フラン=109.88円なので、

およそ、お一人91,000円ぐらいということになります。

91,000円のフルコース!

そんな食事、ぼくは見たことも食べたこともありません。


シャンパンは「ヴーヴ・グリコ1860年物」、

赤ワインは「クロ・ヴージョの1845年物」というヴィンテージで、

「ブリニのデミドフ風」というパンケーキには山盛りキャビアが。

「ウズラとフォアグラのパイ詰め石棺風」にいたっては

ソースがなんと黒トリュフです。


そんな贅の限りを尽くしたフルコースのアペリティフとして出てくるのが、

グルメを自称する人でも、ほとんど食べたことがないと言われる

「ウミガメのスープ」なのです。

もちろんぼくも食べたことがないので味のイメージは湧かないのですが、

とにかくおいしそうなんです!

こればっかりは映像を観てもらうしかありませんので、ぜひ。


このスープを、いつか彼女に作ってもらいたかった。

スープの天才が作る、ウミガメのスープ。

想像するだけでワクワクしますが、その夢はもう叶わないのです。


ぼくにとって彼女は、

親友のような、戦友のような、良きライバルのような関係で、

スープというものの奥深さと、食べることのおもしろさを

教えてくれた師匠でもあるのです。


わと、お疲れさま。ほんとうにありがとう。


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『バベットの晩餐会 HDニューマスター版』
Blu-ray 4,800円+税
DVD 3,500円+税
発売元:是空/TCエンタテインメント
販売元:TCエンタテインメント
©Astrablu Media,Inc.All Rights Reserved.

映画選定・執筆

有坂塁
キノ・イグルー 
有坂塁
キノ・イグルーは、2003年に有坂塁が渡辺順也とともに設立した移動映画館。
東京を拠点に全国のカフェ、パン屋、酒蔵、美術館、 無人島などで、世界各国の映画を上映している。
さらに「あなたのために映画をえらびます」という映画カウンセリングや、
目覚めた瞬間に思いついた映画を毎朝インスタグラムに投稿する「ねおきシネマ」など、
大胆かつ自由な発想で映画の楽しさを伝えている。
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