まっしろなクリスマス。
街はずれにある、小さな映画館で上映されるのは、
名作映画『素晴らしき哉、人生』。
その日の最終回となる夜の回は、観客がぼくひとり。
「クリスマス映画の定番なのにもったいなあ」
なんて気持ちと同時に、ぼくのためだけに映写をしてくれる
映写技師さんへの感謝の想いが溢れてきます。
映画館併設のコーヒースタンドで
あったかいカプチーノを買って、
いよいよ130分の旅のスタートです。
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"ジョージは絶望感から、クリスマスの夜に自殺を考える。
それを助けたのは二流の老天使。
彼は、ジョージの「生まれて来なきゃよかった」
という発言を聞き入れ、
いかに彼が素晴らしい人生を送ってきたかを教えていく。
そして、最後に起こるクリスマスの奇跡"
エンドロール。
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上映終了。
ぼくは席を立つことができません。
気を使ってくれたスタッフさんは、
離れた場所から掃除を始めます。
それでも、動きません。
10分以上経っているというのに。
そして映写技師さんがぼくを覗き込むと、
呼吸はなく、すでに息を引き取っていたのでした…
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完全に映画の見過ぎだと思いますが、
これこそ、ぼくが理想としている人生の終わり方です。
映画館で最後を迎えたい。
作品は『素晴らしき哉、人生』でありたい。
年齢を重ねるごとに、
その強くなっている気がします。
映画の中のジョージは、自分の夢を何度も諦め、
そんな人生に絶望していました。
でもじつのところ彼は、
他の人の夢をたくさん叶えてあげていたのです。
誰もがいろんな人と関わり合って生きていて、
必要ない人なんて誰もいない。
映画の後半、
彼が"いなかった場合"のシーンが出てくるのですが、
ここがとにかく泣けるのです。
夢や奇跡を心から信じたくなる。
そんな人間の善意にあふれた作品を、
ぼくは人生最後の瞬間に観たい。
願わくば、クリスマスの夜に。
あなたは人生最後の日に、何の映画が観たいですか?
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『素晴らしき哉、人生』
DVD 2,200円+税
Blu-ray 3,800円+税
発売元:アイ・ヴィ-・シ-
映画選定・執筆
キノ・イグルー
有坂塁
東京を拠点に全国のカフェ、パン屋、酒蔵、美術館、 無人島などで、世界各国の映画を上映している。
さらに「あなたのために映画をえらびます」という映画カウンセリングや、
目覚めた瞬間に思いついた映画を毎朝インスタグラムに投稿する「ねおきシネマ」など、
大胆かつ自由な発想で映画の楽しさを伝えている。
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