いま考えると不思議ですが、
女性の友情を描いた作品って、かつては数が限られていました。
2000年の初頭ぐらいまで、
まだシスターフッドという言葉が浸透するよりもはるか昔の話です。
そこから状況が変化していったのは、
さまざまな芸術の力や時代の流れがあったと思うのですが、
ドラマ『セックス・アンド・ザ・シティ』の影響は小さくなかったと思います。
アメリカでは、1998年から放映がスタート。
じわじわブームに火をつけ、2008年には満を持して劇場版が公開。
ここで世界的な大ヒットを記録し、
圧倒的な形で"女性たちの物語"が市民権を得たように思います。
ここを一つのターニングポイントとして考えるなら、
それ以前にはどのような女性映画が存在したか。
せっかくの機会なので、注目すべき3本を紹介します。
1980年代の終わりには、『マグノリアの花たち』(1989)がありました。
ジュリア・ロバーツを始めとしたハリウッドを代表する6人の女優が共演し、
女性同士の友情を通し、母娘の愛と死、新たな生命の誕生を綴った感動作です。
ハリウッドの大ベテラン、ダイアン・キートン、ゴールディ・ホーン、
ベット・ミドラーが共演した『ファースト・ワイフ・クラブ』(1996)はコメディ作品。
夫の浮気に怒って"ファースト・ワイフ・クラブ"を結成した3人組
という設定からワクワクできる一作となっています。
そして、日本では小規模公開だった『ロミー&ミッシェル』(1997)。
こちらは、今回紹介する『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー』を
鑑賞した際、真っ先に思い出した作品でもあります。
こじらせ女子2人が、
高校の同窓会へ出席することをきっかけに大変身を試みるという青春映画。
卒業後の大人を描いた話のため、
『ブックスマート〜』のティーンの物語との違いこそありますが、
親友ふたりのこじらせ方など、
いくつか共通点のある2作となっています。
そんな学園コメディ『ブックスマート〜』はこんなお話です。
***
明日は卒業式。
親友同士のモリーとエイミーは、
高校生活の全てを勉学に費やし輝かしい進路を勝ちとった。
ところが、パーティー三昧だった同級生たちも
同じくらいハイレベルな進路を歩むことを知り驚愕。
2人は失った時間を取り戻すべく、
プロム(卒業パーティー)に乗り込むことを決意する。
***
"親友同士でプロムに参加する"
という学園コメディの王道を行きながらも、
「革新的」な傑作としても知られる『ブックスマート〜』。
ビジュアルのイメージからは想像がつかないかと思いますが、
じつはそうなんです。
例えば。
モリーとエイミーの仲良しコンビの設定ですが、
優等生タイプでありながらも、よくある根暗キャラというタイプではありません。
下ネタもバンバン言うし、テンションが上がったらダンスだって踊っちゃいます。
さらにエイミーは普通にレズビアンであることをカミングアウトし、
モリーもそれを当たり前のように受け入れている。
また青春映画のステレオタイプでもある、
冴えない女子がイケメン男子と恋に落ちたり、
女の子同士で足を引っ張り合うこともないですし、
見た目やセクシャリティといった個性を否定する
悪者キャラさえも出てこないのです。
つまり、学園コメディとしての"定型"を
現代版にアップデートしたことこそが、
この映画の革新性となっています。
ひとりひとりが多様性に溢れていて、魅力的。
まさに新しい時代のハイスクール・ムービーなのです。
監督を務めたのは、女優のオリヴィア・ワイルド。
『トロン:レガシー』の黒髪おかっぱ頭のヒロイン役や、
『her/世界でひとつの彼女』『リチャード・ジュエル』といった
個性的な監督作にも出演している、彼女の初監督作となっています。
ちなみに脚本を手掛けたのは4名の女性脚本家で、
30代の女性プロデューサーン率いる「アンナプルナ・ピクチャーズ」が製作を担当と、
まさに現代の女性パワーが集結した作品となっています。
泣いて笑って、拍手を送りたくなる青春コメディの決定版。
きっと観賞後は、あの子に会いたくなってしまうはずです。
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『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー』
豪華版DVD 5,280円
豪華版Blu-ray 6,380円
発売元:ロングライド
販売元:TCエンタテインメント
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映画選定・執筆
キノ・イグルー
有坂塁
東京を拠点に全国のカフェ、パン屋、酒蔵、美術館、 無人島などで、世界各国の映画を上映している。
さらに「あなたのために映画をえらびます」という映画カウンセリングや、
目覚めた瞬間に思いついた映画を毎朝インスタグラムに投稿する「ねおきシネマ」など、
大胆かつ自由な発想で映画の楽しさを伝えている。
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