キノ・イグルーの週末シネマ​ no.200
顔たち、ところどころ|老いることの楽しみを見つめてすてきな歳の重ねのカバー画像

顔たち、ところどころ|老いることの楽しみを見つめてすてきな歳の重ね方

文:キノ・イグルー 有坂塁

顔たち、ところどころ|脚本・監督・出演:アニエス・ヴァルダ、JR(2017年・フランス)

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2021年04月16日作成



歳を重ねることがポジティブだと、

あらためて感じたのは、2003年のこと。

きっかけは、この年から始まった

怒涛のクリント・イーストウッド監督、傑作群を通してでした。


どうしてもベテラン監督というと、作風がマンネリ化するか、

説教くさいメッセージが目立ち気味なのですが、

御大イーストウッドはそのイメージを見事に一新。

黄金期到来!とでも言いたくなる、フレッシュで、ソリッドな傑作を、

なんと73歳から連発し始めたのです。


作品的には、この6本。

3人の幼馴染みの運命を描いたミステリー『ミスティック・リバー』、

老ボクシングトレーナーと女性ボクサーの絆を描いた『ミリオンダラー・ベイビー』、

日米双方の視点から描いた硫黄島2部作『父親たちの星条旗』&『硫黄島からの手紙』、

アンジェリーナ・ジョリー主演の衝撃サスペンス『チェンジリング』、

そして本人が主演も務めた胸熱ヒューマンドラマ『グラン・トリノ』。


いずれも生涯で1本作れるかどうかという大傑作。

それをイーストウッドは、6年という短期間で作り上げてしまったのだから

開いた口が塞がりません(つまり、1年に1本のペース!)。

伝説の6年と言ってよいでしょう。


一方。


映画に対して硬派一徹なイーストウッドとは真反対に、

どこまでもしなやかに、軽やかに、監督人生を歩んだベテラン女性がいます。


彼女の名前は、アニエス・ヴァルダ。

キナリノ読者のみなさんにも、ぜひ知ってもらいたい素敵な女性監督です。


彼女は、若くして写真家としてのキャリアをスタートさせ、

1950年代からは"ヌーヴェルヴァーグ"の映画作家として世界的な名声を得ます。

さらに75歳からは3つ目の肩書き"ビジュアル・アーティスト"としても活動。


そんな彼女が、いかにキュートで、クリエイティヴな人だったかがわかる

ドキュメンタリー作品を今回はご紹介したいと思います。


映画『顔たち、ところどころ』。

内容はこんな感じとなっています。


***


映画監督アニエス・ヴァルダ(作中で87歳)と、

写真家でアーティストのJR(作中で33歳)は、ある日一緒に映画を作ることにした。


JRのスタジオ付きトラックで人々の顔を撮ることにした二人は、

さっそくフランスの村々をめぐり始めた。

炭鉱労働者の村に一人で住む女性、

ヤギの角を切らずに飼育することを信条とする養牧者、

港湾労働者の妻たち、廃墟の村でピクニック、

アンリ・カルティエ・ブレッソンのお墓…

アニエスのだんだん見えづらくなる目、

そしてサングラスを決して取ろうとしないJR、

時に歌い、険悪になり、笑いながら、でこぼこな二人旅は続く。

「JRは願いを叶えてくれた。人と出会い顔を撮ることだ。これなら皆を忘れない」とアニエスはつぶやく。

願いを叶えてくれたお礼にと、

彼女はJRにあるプレゼントをしようとするが…


***


一瞬の表情を切り取り、大きなポートレートとして貼り出す、

参加型のアートプロジェクト。


そのプロセスを記録しただけでも価値があるのに、加えて本作は、

互いのセンスに惹かれ合うJRとヴァルダの人柄までも楽しむことができます。


「僕らは人生に向き合っているんだ。

この映画は僕らの出会いの物語でもある」と語るJR。

まるで両想いなふたり。

年齢や性別を超え、人がリスペクトし合う姿って、

どうしてこうも美しいのでしょうか。


アニエス・ヴァルダは、2019年、享年90歳と10ヶ月で死去。

しかし、この映画の中で彼女は

「最期をどう迎えるかを考えている」ということを楽しそうに語ります。


終わることは自然なこと。

受け入れて、純粋さを保ったまま、

澄み切った心で生きている姿は、

理想的な歳の重ね方そのものです。


そして何と言っても、彼女はおしゃれ!

ローズピンクと白のツートンカラーの髪型と独創的なファッションは、

もはや彼女のトレードマークで、観ているだけで元気がもらえます。


"好奇心旺盛"でいること。


もしかしたら、これこそがすてきに歳を重ねる秘訣なのかもしれません。

ヴァルダとイーストウッドという両巨匠を見ていると、そう思えてなりません。


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『顔たち、ところどころ』
DVD 4,180円(税込)
販売元:アップリンク

映画選定・執筆

有坂塁
キノ・イグルー 
有坂塁
キノ・イグルーは、2003年に有坂塁が渡辺順也とともに設立した移動映画館。
東京を拠点に全国のカフェ、パン屋、酒蔵、美術館、 無人島などで、世界各国の映画を上映している。
さらに「あなたのために映画をえらびます」という映画カウンセリングや、
目覚めた瞬間に思いついた映画を毎朝インスタグラムに投稿する「ねおきシネマ」など、
大胆かつ自由な発想で映画の楽しさを伝えている。
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