この2作で描かれる、夜の散歩シーンが好きです。
キーラ・ナイトレイ主演の『はじまりのうた』は、
i-podのプレイリストをシェアしながら夜のニューヨークを散歩するという、
なんともロマンチックなシーン。
「プレイリストはその人を表す」というセリフから
「見せ合おうか」という胸キュンの展開になるのですが、
その舞台が、夜のニューヨークというのも完璧すぎます。
もう1本は、ウディ・アレン監督の『マンハッタン』。
偶然パーティーで再会して気が合ったふたりが、
夜のマンハッタンを散歩し(途中から犬も参加)、
クイーンズボロー・ブリッジをベンチから眺めるという、あの有名なシーン。
まるで絵葉書のように美しいワンシーンです。
このふたつの名シーンはともに、
心鎮まる夜の時間だったからこそ成立したのだと思います。
真っ暗闇の安心感と、夜景の美しさが醸し出すロマンチックなムード。
これらが揃うことで、心の距離は自然と近づいていったのだと思いますし、
もし明るかったら現実ばかりが強調され、
恋もただの駆け引きで終わってしまったことでしょう。
夜だからこそ成立する物語があるのです。
今回は、アメリカのある"一夜"を描いた青春映画『アメリカン・スリープオーバー』を紹介します。
監督は、一部で熱狂的な支持を受けた
低予算ホラー『イット・フォローズ』のデヴィッド・ロバート・ミッチェル。
こんな物語となっています。
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アメリカ ・デトロイト郊外、夏休み最後の週末。
マギーはプールサイドで自分の夏の"物足りなさ"をなげき、
「もっと"楽しいなにか"をするべきじゃないか」とぼやいていた。
翌日に街で開かれるパレードで、
仲間たちとダンスを踊ることになっているマギーは、
ダンス仲間からその日夜開かれるスリープオーバー(お泊まり会)に招待される。
そこで彼女たちは、生涯忘れることのできない夜を過ごすこととなる…
***
このように、アメリカには夏休みの最後にお泊まり会を行う文化があるそうで、
本作は、その年に一度の"特別な夜"を描いた青春群像劇となっています。
そう、上映時間96分をかけて描かれるのは、たった一夜の物語なのです。
まるで時間が引き伸ばされたような、
夏の夜ならではの"あの感覚"を追体験的できるところも、
この映画のポイントのひとつです。
懐かしい匂いを嗅いだときと同じように、映像と音の感覚だけで、
あの時代へと一瞬にしてタイムスリップすることが出来る。
だからこそ、登場人物への感情移入もよりしやすくなる、
という作りになっています。お見事。
何にでもなれる可能性はあるけど、まだ何者でもない。
そんな、10代特有のモヤモヤ。
少年はひとめ惚れした女性を探し、大学生は双子の姉妹の間で揺れ、
少女は"楽しいなにか"をひたすら追い求める。
初めてのキス、言葉では言い表せない恋、そしてパーティ。
まっすぐに青春を追いかけている彼らですが、
その瞬間もいつかノスタルジーへ変わるのだということを、
誰に言われるでもなく、薄々、気づき始めるのです。
この映画は、誰もが経験したことのある、大人になるための通過儀礼。
ぜひ、心がクールダウンできる真夜中の時間を使って、
彼らの"特別な夜"を、あなたも追体験してみてはいかがでしょうか。
※追記
この映画の『はじまりのうた』と『マンハッタン』に匹敵する名シーンは、
夜のプールのおしゃべりです。こちらもどうぞお楽しみに。
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『アメリカン・スリープオーバー』
Blu-ray 3,500円+税
発売元:Gucchi's Free School + PHASE OUT INC.
販売元:TCエンタテインメント
©Gucchi's Free School + PHASE OUT INC.
映画選定・執筆
キノ・イグルー
有坂塁
東京を拠点に全国のカフェ、パン屋、酒蔵、美術館、 無人島などで、世界各国の映画を上映している。
さらに「あなたのために映画をえらびます」という映画カウンセリングや、
目覚めた瞬間に思いついた映画を毎朝インスタグラムに投稿する「ねおきシネマ」など、
大胆かつ自由な発想で映画の楽しさを伝えている。
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