熱き名勝負と言ったら、やっぱりスポーツです。
サッカーだと、本拠地が同じ都市にあるチーム同士のダービーマッチや、
バルセロナvsレアル・マドリードみたいな超名門同士の対決まで、
数え切れないほどの名勝負が存在します。
いずれもスポーツとしてだけでなく、民族間の対立や、
社会的なバックグランドまで含まれているところがおもしろい。
その分、問題も根深いんですけど。
ところが、個人スポーツになると、目的意識がはっきりしてきます。
いわゆるライバル対決。浅田真央vsキム・ヨナや、北島康介vsハンセンなど、
絶対に負けたくないというプライドをかけた戦いになるので、
マスコミ的にも物語が作りやすく、視聴者も感情移入がしやすい。
では、今回の作品はスポーツもので、ロッキー!
なんて言ってしまうと、少しばかり芸がないので、
ここはスポーツ的なアプローチで音楽家同士の名勝負を描いた『セッション』をあげてみようと思います。
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名門音楽大学に入学したニーマンはフレッチャーのバンドにスカウトされる。
ここで成功すれば偉大な音楽家になるという野心は叶ったも同然。
だが、待ち受けていたのは、
天才を生み出すことに取りつかれたフレッチャーの常人には理解できない
〈完璧〉を求める狂気のレッスンだった。
浴びせられる罵声、仕掛けられる罠…。
ニーマンの精神はじりじりと追い詰められていく。
恋人、家族、人生さえも投げ打ち、
フレッチャーが目指す極みへと這い上がろうともがくニーマン。
しかし…
***
本作は物語の構造がとってもシンプルです。
「ニーマンの負けん気と、フレッチャーの狂気的な指導」。
潔くストーリーはこの一点に絞られています。
余計な要素を加えない、引き算の美学とでも言いましょうか。
そんな二人の才能と狂気が激しくぶつかり合うストーリーは、
ジェットコースターに乗ってるかのようなスピード感と、
息をする余裕もないほどの緊張感をもって爆走していきます。
どこへ着地するのかも、完全に予測不能です。
そして…
「ラスト9分19秒 映画史が塗り替えられる」
というキャッチコピー通りの衝撃が、あなたを待ち受けているのです。
本作は、『ラ・ラ・ランド』のデイミアン・チャゼル監督が、
弱冠28歳のときに作り上げた渾身の傑作。
この映画史に残る名勝負は、
ぜひ長谷部キャプテンのように心を整えてから、
ご覧になることをオススメします。
いい意味で、心をかき乱されること間違いなしですので。
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『セッション』
DVD 1,800円(税抜)
発売元:カルチュア・パブリッシャーズ 販売元:ギャガ
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映画選定・執筆
キノ・イグルー
有坂塁
東京を拠点に全国のカフェ、パン屋、酒蔵、美術館、 無人島などで、世界各国の映画を上映している。
さらに「あなたのために映画をえらびます」という映画カウンセリングや、
目覚めた瞬間に思いついた映画を毎朝インスタグラムに投稿する「ねおきシネマ」など、
大胆かつ自由な発想で映画の楽しさを伝えている。
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