今回は、すごい話です。
心してお読みください。
『オフサイド・ガールズ』というイラン映画があります。
女性のスポーツ観戦が法律で禁止されているイランで、
"女の子だってスタジアム観戦したい!"という心情を、
ユーモアあふれるエンターテイメントにした作品なのですが、
その監督を務めた人こそが、
今回の主人公であるジャファール・パナヒです。
ベルリン国際映画祭審査員グランプリも受賞した本作は、
イランの現体制を批判する内容であるとして、
国内では上映禁止となります。
さらに2010年、パナヒは反体制的な活動を行ったとして、
拘束され刑務所に収監。
その後、保釈金を払って釈放されたものの、自宅軟禁の上、
20年間の映画製作禁止を申し渡されてしまうのです。
理不尽極まりない判決。
しかし彼はそんな厳しい状況下でも、
表現活動をやめませんでした。
なんと自宅にある物と、
そこに訪ねて来た人たちだけを使って、
紛れもない“映画”を作り上げてしまったのです。
電話、テレビ、iPhoneなど身の回りのものを小道具に。
ゴミを収集に来た青年や、ペットのイグアナを脇役に。
どこまでが偶然で、どこまでが演出なのか。
彼は自由を求めて、カメラを回し続けたのです。
そうして完成された本作は、USBファイルに収められ、
お菓子の箱に入れられて、極秘にイランを出国。
セルフドキュメンタリーなのに、
スパイ映画を観ているようなスケール感に
ドキドキが止まりません。
本作はその後、カンヌ映画祭を皮切りに、
世界各国で大反響を巻き起こし、
人権や民主主義を守る活動を讃える「サハロフ賞」も受賞
理不尽な状況になっても、それに負けることなく、
ユーモアと希望さえ湛えた作品を作る人がいる。
文化の違いや、映画の好き嫌いを超えて、
同時代を生きるすべての人に観てもらいたい一作です。
ほんと"事実は小説よりも奇なり"ですね。
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『これは映画ではない』
DVD 3,800円+税
発売元:シネマクガフィン
販売元:紀伊国屋書店
映画選定・執筆
キノ・イグルー
有坂塁
東京を拠点に全国のカフェ、パン屋、酒蔵、美術館、 無人島などで、世界各国の映画を上映している。
さらに「あなたのために映画をえらびます」という映画カウンセリングや、
目覚めた瞬間に思いついた映画を毎朝インスタグラムに投稿する「ねおきシネマ」など、
大胆かつ自由な発想で映画の楽しさを伝えている。
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