キノ・イグルーの週末シネマ​ no.20
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これは映画ではない|信じられない?遠い国の文化事情

文:キノ・イグルー 有坂塁

これは映画ではない|監督:ジャファール・パナヒ(2011年・イラン)

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2017年11月03日作成



今回は、すごい話です。

心してお読みください。



『オフサイド・ガールズ』というイラン映画があります。

女性のスポーツ観戦が法律で禁止されているイランで、

"女の子だってスタジアム観戦したい!"という心情を、

ユーモアあふれるエンターテイメントにした作品なのですが、

その監督を務めた人こそが、

今回の主人公であるジャファール・パナヒです。


ベルリン国際映画祭審査員グランプリも受賞した本作は、

イランの現体制を批判する内容であるとして、

国内では上映禁止となります。

さらに2010年、パナヒは反体制的な活動を行ったとして、

拘束され刑務所に収監。

その後、保釈金を払って釈放されたものの、自宅軟禁の上、

20年間の映画製作禁止を申し渡されてしまうのです。

理不尽極まりない判決。


しかし彼はそんな厳しい状況下でも、

表現活動をやめませんでした。


なんと自宅にある物と、

そこに訪ねて来た人たちだけを使って、

紛れもない“映画”を作り上げてしまったのです。

電話、テレビ、iPhoneなど身の回りのものを小道具に。

ゴミを収集に来た青年や、ペットのイグアナを脇役に。

どこまでが偶然で、どこまでが演出なのか。

彼は自由を求めて、カメラを回し続けたのです。


そうして完成された本作は、USBファイルに収められ、

お菓子の箱に入れられて、極秘にイランを出国。

セルフドキュメンタリーなのに、

スパイ映画を観ているようなスケール感に

ドキドキが止まりません。


本作はその後、カンヌ映画祭を皮切りに、

世界各国で大反響を巻き起こし、

人権や民主主義を守る活動を讃える「サハロフ賞」も受賞


理不尽な状況になっても、それに負けることなく、

ユーモアと希望さえ湛えた作品を作る人がいる。

文化の違いや、映画の好き嫌いを超えて、

同時代を生きるすべての人に観てもらいたい一作です。

ほんと"事実は小説よりも奇なり"ですね。


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『これは映画ではない』
DVD 3,800円+税
発売元:シネマクガフィン
販売元:紀伊国屋書店

映画選定・執筆

有坂塁
キノ・イグルー 
有坂塁
キノ・イグルーは、2003年に有坂塁が渡辺順也とともに設立した移動映画館。
東京を拠点に全国のカフェ、パン屋、酒蔵、美術館、 無人島などで、世界各国の映画を上映している。
さらに「あなたのために映画をえらびます」という映画カウンセリングや、
目覚めた瞬間に思いついた映画を毎朝インスタグラムに投稿する「ねおきシネマ」など、
大胆かつ自由な発想で映画の楽しさを伝えている。
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