いかにも若気の至り、といった感じですが…
20代前半、コメディ映画を否定していた時期がありました。
教訓や感性を与えてくれるものこそ映画だとの思い込みから、
コメディ映画を観るのは"悪"とさえ思っていました。
人生が変わった映画が『クール・ランニング』のくせに。
どの口が言ってんだかって感じです(笑)
当時は反面教師のように、
ゴダールやタルコフスキーといった難解な映画を
わかったような気になって楽しむことがすべてで、
僕史上もっとも視野が狭くなっていた時期と言っていいかもしれません。
背伸びし放題。
そこからコメディ映画に興味が持てたのは、
ひとえにその背伸び期に出会った名監督の存在でした。
ハワード・ホークス『赤ちゃん教育』(1938)
エルンスト・ルビッチ『生きるべきか死ぬべきか』(1942)
フランク・キャプラ『或る夜の出来事』(1934) …
ジム・キャリーやMr.ビーンに興味はないけれど(すみません!いまは好きです!)、
巨匠たちのコメディであれば、
ただのお笑いではなく"作品"として受け止めることが出来る。
お恥ずかしながら、当時は、素直にそう思っていたのです。
そこで出会った衝撃的な一作『我輩はカモである』。
1933年に作られたマルクス兄弟の代表作かつ、
映画史的にも重要な1本として位置づけられているコメディ作品になります。
まずはストーリーからご確認ください。
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フリードニア共和国は財政難にあえぐ中、
実力者のティーズデール夫人に援助を求めた。
彼女はルーファスを宰相にするという条件を出したうえで承諾し、
かくしてルーファスは首相になる。
だが、強引な手法でかえって国内に混乱を招く。
フリードニア共和国の乗っ取りを企てていた
隣国シルヴェニアの大使トレンティーノは、
夫人に色仕掛けで接近する一方、
スパイのチコリーニとピンキーの二人組を送り込む。
ルーファスは二人を側近にしたので、混乱に拍車がかかってしまい、
ついにシルヴェニアと開戦、
議会で首相と国民は「いざ開戦」と歌い狂う…
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マルクス兄弟とは、じつの兄弟による4人組のコメディアンです。
(末弟ゼッポは、本作をもって脱退)
極太眉に口ひげで堂々と口からでまかせを言い放つグルーチョ、
イタリア訛りの詐欺師チコ、
一言も発せずにマイムと口笛などで意思表示するハーポ、
そしてイケメンキャラのゼッポ。
彼らは音楽の才能にも恵まれ、
特にハーポのハープ演奏と、チコのピアノの技術は突出していて、
のちの映画では2人の演奏シーンが定番になったほど。
と、ここまで読んでピンときた方もいると思います。
そう、彼らは日本のドリフターズやクレージーキャッツなど、
後世のコメディアンに大きな影響を与えた存在でもあるのです。
中でも、『我輩はカモである』は記念碑的一作。
なぜなら、あの伝説とも言われる志村けんの"合わせ鏡のコント"の
オリジナル版が観られるんですから!
じつの兄弟が生み出す、阿吽の呼吸。
その驚異的なシンクロ具合に、腰を抜かしてしまうこと間違いなしです。
思い出しただけでも笑えてくる!
架空の国の独裁政治が招くハチャメチャな破滅劇を、
アナーキーなギャグの連続で皮肉たっぷりに笑い飛ばす。
今週末は、そんなやみつきになるユーモアをお楽しみいただければと思います。
※アメリカ映画協会が2000年に選定した「笑えるアメリカ映画ベスト100」 では、
『アパートの鍵貸します』(1960) やチャップリンの『黄金狂時代』(1925) など、
並み居る強豪を抑え、第5位に選出されました。
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『我輩はカモである』
DVD 1,572円(税込)
発売元:NBCユニバーサル・エンターテイメント
※2022年1月の情報です。
映画選定・執筆
キノ・イグルー
有坂塁
東京を拠点に全国のカフェ、パン屋、酒蔵、美術館、 無人島などで、世界各国の映画を上映している。
さらに「あなたのために映画をえらびます」という映画カウンセリングや、
目覚めた瞬間に思いついた映画を毎朝インスタグラムに投稿する「ねおきシネマ」など、
大胆かつ自由な発想で映画の楽しさを伝えている。
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