キノ・イグルーの週末シネマ​ no.216
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希望のかなた|報道されないことを知る社会問題に切り込むおすすめ映画

文:キノ・イグルー 有坂塁

希望のかなた|監督・脚本:アキ・カウリスマキ(2017年・フィンランド)

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2021年08月06日作成



最も敬愛する映画監督、フィンランドのアキ・カウリスマキ。


"北欧の片隅でシンプルに生きる人たちの哀愁と優しさを、独特なユーモアで描く"

という変わらない内容で(時には、北欧を離れたりしますが…)、

彼はこれまでに劇場映画を17本、

およそ40年にわたり作品を作り続けています。


そんなアキに小さな変化を感じたのは、『希望のかなた』の公開が発表されたとき。

前作『ル・アーヴルの靴みがき』(2011)は

"港町3部作"と名付けたシリーズの1作目だったのですが、

2作目『希望のかなた』のタイミングで、

突如、シリーズの呼び名を変更したのです。


"港町3部作"から "難民3部作" へ。


途中でシリーズ名を変更するなんて前代未聞。

でもそこにアキの強い意志のようなもの感じ、

公開がより待ち遠しくなったことを覚えています。

シャイな彼は、大規模な記者会見を開くのではなく、

シリーズの呼び名を変えることで、

深刻化している難民問題と向き合うことを宣言したのです。

あくまで、さりげなく。


『希望のかなた』。

ストーリーは、このようになっています。


***


内戦が激化する故郷シリアを逃れた青年カーリドは、生き別れた妹を探して、

偶然にも北欧フィンランドの首都ヘルシンキに流れつく。

空爆で全てを失くした今、彼の唯一の望みは妹を見つけだすこと。

ヨーロッパを悩ます難民危機のあおりか、

この街でも差別や暴力にさらされるカーリドだったが、

レストランオーナーのヴィクストロムは彼に救いの手をさしのべ、

自身のレストランへカーリドを雇い入れる。

そんなヴィクストロムもまた、行きづまった過去を捨て、

人生をやり直そうとしていた。

それぞれの未来を探すふたりはやがて"家族"となり、

彼らの人生には希望の光がさし始める…


***


「この作品を通して、現代のフィンランド全体を覆う難民や外国人に対する"無知"がもたらす危機感に対し、警鐘を鳴らしている」と、

アキ監督は語っています。


もはや、待ったなしの移民問題。

SDGsの目標10の中でも「人や国の不平等をなくそう」をテーマに、

移民問題の改善に取り組み始めてはいますが、

正直、島国である日本人にはピンと来ないところもあると思います。


本作が素晴らしいのは、

そんな海の向こうの出来事と錯覚してしまう問題を、

誰もが共感できるヒューマンドラマに仕立て上げたところにあります。

主人公に感情移入することで、

自分ごととして移民問題を考えるきっかけになる。


そして、ここがアキの真骨頂なのですが、

彼はこのシリアスなテーマを、ユーモアを交えた軽やかな語り口で描きます。

ギャグを交えた笑えるシーンさえある。

この落差に心が動き、移民問題を頭だけでなく、

心で感じることができるわけです。


ミクロからマクロへ。

アキは、1人の移民の青年を通して、

大きくも大切なメッセージを僕たちに語りかけてくれます。


最後に、そんなアキの人柄がわかるエピソードをご紹介します。

2002年のニューヨーク映画祭に招かれた彼は、

イランのアッバス・キアロスタミ監督が同時多発テロの影響で

アメリカ政府からビザを発給されず、

入国も許可されなかったことを受け、次のような発言をしました。


「世界中で最も平和を希求する人物の一人であるキアロスタミ監督に

イラン人だからビザが出ないと聞き、深い哀しみを覚える。

石油すらもっていないフィンランド人はもっと不要だろう。

米国防長官は我が国でキノコ狩りでもして気を鎮めたらどうか。

世界の文化の交換が妨害されたら何が残る?武器の交換か?」


この言葉に、彼のすべてが現れている気がします。

『希望のかなた』、ぜひご覧になってみてください。


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『希望のかなた』
DVD 4,180円(税込)
好評発売中
発売・販売元:松竹
©SPUTNIK OY,2017
※2021年8月時点の情報です

映画選定・執筆

有坂塁
キノ・イグルー 
有坂塁
キノ・イグルーは、2003年に有坂塁が渡辺順也とともに設立した移動映画館。
東京を拠点に全国のカフェ、パン屋、酒蔵、美術館、 無人島などで、世界各国の映画を上映している。
さらに「あなたのために映画をえらびます」という映画カウンセリングや、
目覚めた瞬間に思いついた映画を毎朝インスタグラムに投稿する「ねおきシネマ」など、
大胆かつ自由な発想で映画の楽しさを伝えている。
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