「キナリノ読者もドキッとするような着こなしをお願いします」
というのが今回の裏オーダーでした。
ニットの着こなしだけでなく、ドキッとするもの。
条件が増えると、普通、作品選びは難しくなるのですが、
今回はなんと1秒で決まりました 笑
それが、ドイツ人のヴィム・ヴェンダースが1984年に製作した
ロードムービーの名作『パリ、テキサス』になります。
***
テキサスの砂漠に実在するといわれている「パリ」を探して
放浪の旅に出たトラヴィス。
疲労のあまりガソリン・スタンドで倒れ込み、
病院からの知らせを受けた弟に連れられ、ロサンゼルスの自宅に帰ると、
4年前に置き去りにした幼い息子と再会する。
しかし、妻ジェーンの姿はない。
トラヴィスは息子と次第に親子の関係を取り戻してゆき、
共に蒸発したジェーンを捜す旅に出るが、
紆余曲折をへてめぐり会った彼女に、
彼は愛するがゆえの苦悩を打ち明ける…
***
ニットの主は、妻ジェーン役を演じたナスターシャ・キンスキー。
DVDジャケットにも写っている、
この赤いニットが今回ご紹介したい一品です。
背中の大きく開いたモヘアの赤ニット、じつはこれ、
Vネックのものを前後逆に着ているのだそう。
この後ろ部分が開きすぎてる感じが、セクシーでかわいい。
すれすれで下品にまでいかないあたり、さすがはナスターシャ。
そんな彼女の魅力もさることながら、
観た人のほとんどがこの赤いニットを忘れられないのは、
別の秘密があったりします。
それは、映画全体の色彩設計です。
本作のベースとなる色調は、モノトーンと緑がかった青。
主人公が旅するのはテキサスの荒野のため、色が少なく、
砂ぼこりでぼやっとした風景になっています。
そう、まるで赤を強調させるために考えられたかのような
画面構成になっているのです。
実際にメインどころで赤が出てくるのは、
最初のトラヴィスの帽子と洋服、
ジェーンが登場するときに乗っていた車の色と赤いセーター、
あとはラストの夕日ぐらいです(細かいところは置いておきます)
本作の最重要ポイント、ジェーンとトラヴィスの関係においてのみ、
赤を使用するという潔さ。
中でもナスターシャ・キンスキーの登場を最大限引き立たせるため、
一番ビビッドな「赤」を使う。
しかも素材は、優れた光沢を持つモヘアなのだから、
監督の意図ははっきりしてますよね。
キナリノ読者のみなさんは、あまり選ばないタイプのニットだと思いますが、
本作を観たら、意外と真似したくなるかも。
それほどに魅力的なワンシーンであることは間違いありません。
髪型だってブロンドボブにしたくなるかもしれませんよ 笑
何はともあれ、本格的な冬じたくをはじめる前に
ぜひ一度、ご覧になってくださいね。
映画選定・執筆
キノ・イグルー
有坂塁
東京を拠点に全国のカフェ、パン屋、酒蔵、美術館、 無人島などで、世界各国の映画を上映している。
さらに「あなたのために映画をえらびます」という映画カウンセリングや、
目覚めた瞬間に思いついた映画を毎朝インスタグラムに投稿する「ねおきシネマ」など、
大胆かつ自由な発想で映画の楽しさを伝えている。
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