たったの12分。
今回紹介する『つみきのいえ』の上映時間。
あなたは日々、この時間を使って、どんなことをしているでしょうか?
電車の時間だと、渋谷~新宿駅間の湘南新宿ライン。
あれがちょうど12分です。
陸上に携わっていた方なら、悪夢の「12分間走」を思い出すでしょう。
簡易的に、心肺機能をチェックする方法で、またの名をクーパーテスト。
J-POPで言えば、電気グルーヴの「虹」や、
ヨーソロー!でおなじみの長渕剛「Captain of the Ship」も12分前後でした(って知ってます?笑)
SNSをチェックしていたら、12分なんてあっという間。
『つみきのいえ』という作品は、
そんな短い時間の中にたくさんの魅力を詰めこんだ、
極上のショートアニメーションになります。濃密な12分。
内容は、いたってシンプル。
こんな感じとなっています。
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まるで「積み木」のような家。
海面が、どんどん上がってくるので、
家を上へ上へと「建て増し」続けてきました。
そんな家に住んでいるおじいさんの、家族との思い出の物語。
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まるで、絵本のようなストーリー。
「水に沈んでいく家を積み重ねて生きていくなんて、さみしいお話かな?」
と思う人もいるかもしれません。
しかしそこには、素敵な思い出を積み重ねたおじいさんの人生があったのです…
優しく切なく、温かい雰囲気。
絵と音楽だけで表現される世界には、セリフが一切ありません。
それが、何とも心地よくて。
行間を読み取るような"余白"のおかげで、
おじいさんの人生に対して、さまざまな想像をめぐらせることができます。
やわらかい絵のタッチは、鉛筆画で描かれたもの。
おじいさんの積み重ねてきた人生が感じられるよう陰影を強く出したり、
回想シーンでは色合いに変化をつけて心情を表したりという、こだわりよう。
心にじーんと染みる音楽を手掛けたのは、
Eテレの『0655』『2355』でも活躍される近藤研二さん(元・栗コーダーカルテット)
シンプルなピアノ、ギターの音色で、
切なさやあたたかさといった感情を見事に表現し、
映画の世界に奥行きをもたらしています。
そして!じつは!
本作のDVDには、女優・長澤まさみさんがナレーションを務めた
"日本語版"というものが収録されています。
大きな余白だった部分を、読み聞かせのようにナレーションが補ってくれる。
これまで説明してきたことを覆してしまうようですが、
この"日本語版"がまた素晴らしいのです。
言葉のチョイスから、感情の込め方まで「完璧!」なんて言いたくなる最高の仕上がり。
正直言って観る前は不安しかありませんでしたが、
女優・長澤まさみさんの凄さもあらためて体感することができる
良質なアザーバージョンとなっているのです。
アマゾンプライムなどの配信で観られるかどうかはわかりませんが、
ぜひこの"日本語版"の存在も、心に留めておいていただければと思います。
第81回アカデミー賞の短編アニメ賞も受賞した、世界的なアニメーション作品。
人生の中の12分を『つみきのいえ』に使ってみるだけで、
あなたの未来は大きく変わるかもしれません。
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「pieces of love vol.1 つみきのいえ」
DVD 発売中
2,090 円(税抜価格 1,900 円)
発売元:ROBOT
販売元:東宝
©ROBOT
映画選定・執筆
キノ・イグルー
有坂塁
東京を拠点に全国のカフェ、パン屋、酒蔵、美術館、 無人島などで、世界各国の映画を上映している。
さらに「あなたのために映画をえらびます」という映画カウンセリングや、
目覚めた瞬間に思いついた映画を毎朝インスタグラムに投稿する「ねおきシネマ」など、
大胆かつ自由な発想で映画の楽しさを伝えている。
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