キノ・イグルーの週末シネマ​ no.279
パリところどころ|いろいろな視点から楽しめるオムニバス映のカバー画像

パリところどころ|いろいろな視点から楽しめるオムニバス映画

文:キノ・イグルー 有坂塁

パリところどころ|監督:ジャン・ドゥーシェ、ジャン・ルーシュ、ジャン=ダニエル・ポレなど(1965年・フランス)

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2022年10月21日作成



オムニバス映画は"他流試合"のようだ。

そう語ったのは、元ピチカート・ファイヴの小西康陽さん。


与えられたテーマに対し、誰も思いつかないような答えを出す。

それは他の監督よりもよく観せたい、というスケベ心なのか、

競争相手が現れると俄然張りきる子供っぽさの現れか。


そんなことを語っていたように思います。

まさに、言い得て妙。


僕も同様の理由から、オムニバスという形式を好みます。

いつも以上に自分色を出そうとする欲深さと、

長編映画では難しい"実験的"表現へのチャレンジ。

競争相手がいることで生まれる未知のパワーに、

いちファンとしてワクワクしてしまうのです。

"才能のショウケース"的なおもしろさがあるかなと。


そんなオムニバス映画は、古今東西、様々なタイプの作品が存在しますが、

個人的に偏愛するのは、1960年代に作られたフランスの作品。

『新・七つの大罪』(1962)、『キス、キス、キッス!』(1963)、

『世界詐欺物語』(1964)、『愛すべき女・女(め・め)たち』(1966)、

『ベトナムから遠く離れて』(1967) など、

軽快なコメディタッチのものから反戦ドキュメンタリーまで、

扱っているテーマが幅広く、いずれも面白い。


中でも、ベストオムニバスとして語られることの多いのが

『パリところどころ』(1965) です。

パリの異なる地区をテーマとした物語の連作。監督は6人。


まずは、こちらの内容からご確認ください。


***


1964年秋─

フランス映画のヌーヴェル・ヴァーグ(新しい波)を代表する6人の監督が、

その時それぞれのパリを競って撮ったオムニバス作品。

今見るその60年代のパリは、

まさに都市学にも通じる貴重なドキュメントになっている。

当時24歳で、映画批評誌『カイエ・デュ・シネマ』に参加していた

バーベット・シュローダーが、のちのフランス映画の巨匠エリック・ロメールとともに

作った製作会社「レ・フィルム・デュ・ローザンジュ」による初の長編企画で、

新たに開発された小型軽量カメラによって、少人数スタッフで16ミリ撮影され、

ヌーヴェル・ヴァーグの神髄を捉えた貴重な作品。

都市の視線による新しい映画の冒険が、まさにここから始まった。


第1話「サンジェルマン・デ・プレ」
監督:ジャン・ドゥーシェ

第2話「北駅」
監督:ジャン・ルーシュ

第3話「サンドニ街」
監督:ジャン=ダニエル・ポレ

第4話「エトワール広場」
監督:エリック・ロメール

第5話「モンパルナスとルヴァロワ」
監督:ジャン=リュック・ゴダール

第6話「ラ・ミュエット」
監督:クロード・シャブロル


***


このように、本作はノリに乗っていた時代のヌーヴェルヴァーグが産み落とした

幸運なオムニバス作品となっています。

若々しくて、瑞々しい感性に満ち溢れた監督によるショウケース。

すでにご覧になったことがあるあなたは、どのエピソードが好みでしょうか?


僕のお気に入りは、3つ。

第2話「北駅」、第4話「エトワール広場」、第5話「モンパルナスとルヴァロワ」。


パリの魅力という視点で見ると、第4話のロメール編がベストかもしれません。

凱旋門を中心に12本の大通りが放射状に広がるエトワール広場の環境を

うまく活かしたサスペンスとユーモア。小さな因縁が物語を進めます。


第5話のゴダール編は、2通のラブレターを入れ間違えてしまった女の子が、

もみ消そうと大急ぎで駆け出すが…

という『女は女である』的なゴダール喜劇の魅力が楽しめる作品となっています。

コケティッシュなジョアンナ・シムカスにもご注目!


そして、最も衝撃的な第2話のジャン・ルーシュ編。

緊張感が持続する16分長回しワンショットの果てに、

ある衝撃が待ち受けているのですが、

初めて観たときは、次のエピソードに気持ちが切り替えられないほど、

打ちのめされたことを覚えています。

(短編映画史に残る傑作と言っていいでしょう)


というのが、ぼくのお気に入り3本です。

他の3作も、それぞれ異なる視点からパリが楽しめますので、

ぜひご覧になってみてはいかがでしょうか。

そして、あなたのお気に入りを探してみてくださいね。



※冒頭で紹介した1960年代のオムニバス作品には、

すべてジャン=リュック・ゴダールが監督として参加しています。

まさにゴダールの時代、ですね。


************************************************
『パリところどころ』
DVD 5,280円
発売元:シネマクガフィン
販売元:紀伊國屋書店
©LES FILMS DU LOSANGE 1965

映画選定・執筆

有坂塁
キノ・イグルー 
有坂塁
キノ・イグルーは、2003年に有坂塁が渡辺順也とともに設立した移動映画館。
東京を拠点に全国のカフェ、パン屋、酒蔵、美術館、 無人島などで、世界各国の映画を上映している。
さらに「あなたのために映画をえらびます」という映画カウンセリングや、
目覚めた瞬間に思いついた映画を毎朝インスタグラムに投稿する「ねおきシネマ」など、
大胆かつ自由な発想で映画の楽しさを伝えている。
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