オムニバス映画は"他流試合"のようだ。
そう語ったのは、元ピチカート・ファイヴの小西康陽さん。
与えられたテーマに対し、誰も思いつかないような答えを出す。
それは他の監督よりもよく観せたい、というスケベ心なのか、
競争相手が現れると俄然張りきる子供っぽさの現れか。
そんなことを語っていたように思います。
まさに、言い得て妙。
僕も同様の理由から、オムニバスという形式を好みます。
いつも以上に自分色を出そうとする欲深さと、
長編映画では難しい"実験的"表現へのチャレンジ。
競争相手がいることで生まれる未知のパワーに、
いちファンとしてワクワクしてしまうのです。
"才能のショウケース"的なおもしろさがあるかなと。
そんなオムニバス映画は、古今東西、様々なタイプの作品が存在しますが、
個人的に偏愛するのは、1960年代に作られたフランスの作品。
『新・七つの大罪』(1962)、『キス、キス、キッス!』(1963)、
『世界詐欺物語』(1964)、『愛すべき女・女(め・め)たち』(1966)、
『ベトナムから遠く離れて』(1967) など、
軽快なコメディタッチのものから反戦ドキュメンタリーまで、
扱っているテーマが幅広く、いずれも面白い。
中でも、ベストオムニバスとして語られることの多いのが
『パリところどころ』(1965) です。
パリの異なる地区をテーマとした物語の連作。監督は6人。
まずは、こちらの内容からご確認ください。
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1964年秋─
フランス映画のヌーヴェル・ヴァーグ(新しい波)を代表する6人の監督が、
その時それぞれのパリを競って撮ったオムニバス作品。
今見るその60年代のパリは、
まさに都市学にも通じる貴重なドキュメントになっている。
当時24歳で、映画批評誌『カイエ・デュ・シネマ』に参加していた
バーベット・シュローダーが、のちのフランス映画の巨匠エリック・ロメールとともに
作った製作会社「レ・フィルム・デュ・ローザンジュ」による初の長編企画で、
新たに開発された小型軽量カメラによって、少人数スタッフで16ミリ撮影され、
ヌーヴェル・ヴァーグの神髄を捉えた貴重な作品。
都市の視線による新しい映画の冒険が、まさにここから始まった。
第1話「サンジェルマン・デ・プレ」
監督:ジャン・ドゥーシェ
第2話「北駅」
監督:ジャン・ルーシュ
第3話「サンドニ街」
監督:ジャン=ダニエル・ポレ
第4話「エトワール広場」
監督:エリック・ロメール
第5話「モンパルナスとルヴァロワ」
監督:ジャン=リュック・ゴダール
第6話「ラ・ミュエット」
監督:クロード・シャブロル
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このように、本作はノリに乗っていた時代のヌーヴェルヴァーグが産み落とした
幸運なオムニバス作品となっています。
若々しくて、瑞々しい感性に満ち溢れた監督によるショウケース。
すでにご覧になったことがあるあなたは、どのエピソードが好みでしょうか?
僕のお気に入りは、3つ。
第2話「北駅」、第4話「エトワール広場」、第5話「モンパルナスとルヴァロワ」。
パリの魅力という視点で見ると、第4話のロメール編がベストかもしれません。
凱旋門を中心に12本の大通りが放射状に広がるエトワール広場の環境を
うまく活かしたサスペンスとユーモア。小さな因縁が物語を進めます。
第5話のゴダール編は、2通のラブレターを入れ間違えてしまった女の子が、
もみ消そうと大急ぎで駆け出すが…
という『女は女である』的なゴダール喜劇の魅力が楽しめる作品となっています。
コケティッシュなジョアンナ・シムカスにもご注目!
そして、最も衝撃的な第2話のジャン・ルーシュ編。
緊張感が持続する16分長回しワンショットの果てに、
ある衝撃が待ち受けているのですが、
初めて観たときは、次のエピソードに気持ちが切り替えられないほど、
打ちのめされたことを覚えています。
(短編映画史に残る傑作と言っていいでしょう)
というのが、ぼくのお気に入り3本です。
他の3作も、それぞれ異なる視点からパリが楽しめますので、
ぜひご覧になってみてはいかがでしょうか。
そして、あなたのお気に入りを探してみてくださいね。
※冒頭で紹介した1960年代のオムニバス作品には、
すべてジャン=リュック・ゴダールが監督として参加しています。
まさにゴダールの時代、ですね。
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『パリところどころ』
DVD 5,280円
発売元:シネマクガフィン
販売元:紀伊國屋書店
©LES FILMS DU LOSANGE 1965
映画選定・執筆
キノ・イグルー
有坂塁
東京を拠点に全国のカフェ、パン屋、酒蔵、美術館、 無人島などで、世界各国の映画を上映している。
さらに「あなたのために映画をえらびます」という映画カウンセリングや、
目覚めた瞬間に思いついた映画を毎朝インスタグラムに投稿する「ねおきシネマ」など、
大胆かつ自由な発想で映画の楽しさを伝えている。
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