キノ・イグルーの週末シネマ​ no.50
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華氏451|こんな世界、あり!?ディストピアへようこそ

文:キノ・イグルー 有坂塁

華氏451|監督:フランソワ・トリュフォー(1966年・イギリス)

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2018年06月01日作成



ディストピアという言葉、ご存知でしょうか?


ぼくは、つい最近まで聞いたこともなく、

キルスティン・ダンスト主演による上下逆さまのSFファンタジー

『アップサイドダウン 重力の恋人』(2012) のチラシで、

その言葉を知りました。


そこには「ロミオとジュリエット」のような古典的な愛の物語と、

"ディストピア的SFの設定"が見事に融合されたSF映画、と書いてありました。

なんだそれ?ということで調べると、

「ユートピア(理想郷)の正反対の社会。

一般的には、SFなどで空想的な未来として描かれる、

否定的で反ユートピアの要素を持つ社会という着想で、

その内容は政治的・社会的な様々な課題を背景としている場合が多い」

とのこと。


お、それならぼくの好きなあの映画も?と調べてみたら、

『ブレードランナー』(1982) も、『未来世紀ブラジル』(1985)も、

『12モンキーズ』(1995)も、やっぱりディストピア映画でした。

観たことがある方なら、この3作で雰囲気はつかめるんじゃないかと思います。


今回は、そんな数ある"暗黒郷"映画の中でも、

入門編として、これ以上ない1本をご紹介します。

フランス人監督、フランソワ・トリュフォー初の英語作品となる『華氏451』です。


***


読書や本の所持が禁じられた未来。

書物の捜索と焼却を仕事にするモンターグは、

妻リンダと瓜二つの女性クラリスと知り合う。

本に対して情熱を持つクラリスに刺激され、

モンターグも禁じられた本に手を出し、

その魅力にとりつかれていく。

しかし、夫が読書をしていることを知ったリンダにより、

モンターグは密告され…


***


いやはや、本好きには恐ろしすぎる世界。

でも、この"本"という小道具が、じつはすごく効いているのです。


SFというのは、基本的に空想の世界の話です。

なので、人によっては感情移入がしづらく、

設定の裏側に隠れているリアルなメッセージが読み取りにくいという方も

結構な数、いらっしゃいます。


ところが『華氏451』の場合、"本"という物体が触媒となり、

架空の世界が、リアルに変質します。


もちろん、本そのものが映っていればいいということでなく、

この映画では、日々ぼくたちが手にしている大切な本たちが、

なんと、燃やされてしまうのです。

しかも、火炎放射器を使って、容赦なく。


これがね、映像として観ると、非常につらい。

想像以上に、心が痛みます(『ヴァージン・スーサイズ』でレコードが燃やされたように!)

でもその痛みがあるからこそ、監督が本当に伝えたいメッセージが、

心の深いところまで響いてくる。

『華氏451』を100%で楽しむためには、必要不可欠な痛みなのです。


ということで本作は、ディストピア映画のビギナーには、うってつけの1本となってるのです。


では、最後に。

ぼくも今知ったのですが、なんと『華氏451』のリメイク版が、

今年アメリカでテレビ放送されるのだそう!

内容が、一般大衆の思想が政府によってコントロールされる、という設定だからなのか、

トランプ時代の今だからこそ!との気概で作られたという、ウワサ。

YouTubeで予告編が観られるので、ぜひこちらもご覧になってみてくださいね。


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『華氏451』
DVD 1,429円+税
発売中
発売元:NBCユニバーサル・エンターテイメント
※2018年6月の情報です

映画選定・執筆

有坂塁
キノ・イグルー 
有坂塁
キノ・イグルーは、2003年に有坂塁が渡辺順也とともに設立した移動映画館。
東京を拠点に全国のカフェ、パン屋、酒蔵、美術館、 無人島などで、世界各国の映画を上映している。
さらに「あなたのために映画をえらびます」という映画カウンセリングや、
目覚めた瞬間に思いついた映画を毎朝インスタグラムに投稿する「ねおきシネマ」など、
大胆かつ自由な発想で映画の楽しさを伝えている。
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