ディストピアという言葉、ご存知でしょうか?
ぼくは、つい最近まで聞いたこともなく、
キルスティン・ダンスト主演による上下逆さまのSFファンタジー
『アップサイドダウン 重力の恋人』(2012) のチラシで、
その言葉を知りました。
そこには「ロミオとジュリエット」のような古典的な愛の物語と、
"ディストピア的SFの設定"が見事に融合されたSF映画、と書いてありました。
なんだそれ?ということで調べると、
「ユートピア(理想郷)の正反対の社会。
一般的には、SFなどで空想的な未来として描かれる、
否定的で反ユートピアの要素を持つ社会という着想で、
その内容は政治的・社会的な様々な課題を背景としている場合が多い」
とのこと。
お、それならぼくの好きなあの映画も?と調べてみたら、
『ブレードランナー』(1982) も、『未来世紀ブラジル』(1985)も、
『12モンキーズ』(1995)も、やっぱりディストピア映画でした。
観たことがある方なら、この3作で雰囲気はつかめるんじゃないかと思います。
今回は、そんな数ある"暗黒郷"映画の中でも、
入門編として、これ以上ない1本をご紹介します。
フランス人監督、フランソワ・トリュフォー初の英語作品となる『華氏451』です。
***
読書や本の所持が禁じられた未来。
書物の捜索と焼却を仕事にするモンターグは、
妻リンダと瓜二つの女性クラリスと知り合う。
本に対して情熱を持つクラリスに刺激され、
モンターグも禁じられた本に手を出し、
その魅力にとりつかれていく。
しかし、夫が読書をしていることを知ったリンダにより、
モンターグは密告され…
***
いやはや、本好きには恐ろしすぎる世界。
でも、この"本"という小道具が、じつはすごく効いているのです。
SFというのは、基本的に空想の世界の話です。
なので、人によっては感情移入がしづらく、
設定の裏側に隠れているリアルなメッセージが読み取りにくいという方も
結構な数、いらっしゃいます。
ところが『華氏451』の場合、"本"という物体が触媒となり、
架空の世界が、リアルに変質します。
もちろん、本そのものが映っていればいいということでなく、
この映画では、日々ぼくたちが手にしている大切な本たちが、
なんと、燃やされてしまうのです。
しかも、火炎放射器を使って、容赦なく。
これがね、映像として観ると、非常につらい。
想像以上に、心が痛みます(『ヴァージン・スーサイズ』でレコードが燃やされたように!)
でもその痛みがあるからこそ、監督が本当に伝えたいメッセージが、
心の深いところまで響いてくる。
『華氏451』を100%で楽しむためには、必要不可欠な痛みなのです。
ということで本作は、ディストピア映画のビギナーには、うってつけの1本となってるのです。
では、最後に。
ぼくも今知ったのですが、なんと『華氏451』のリメイク版が、
今年アメリカでテレビ放送されるのだそう!
内容が、一般大衆の思想が政府によってコントロールされる、という設定だからなのか、
トランプ時代の今だからこそ!との気概で作られたという、ウワサ。
YouTubeで予告編が観られるので、ぜひこちらもご覧になってみてくださいね。
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『華氏451』
DVD 1,429円+税
発売中
発売元:NBCユニバーサル・エンターテイメント
※2018年6月の情報です
映画選定・執筆
キノ・イグルー
有坂塁
東京を拠点に全国のカフェ、パン屋、酒蔵、美術館、 無人島などで、世界各国の映画を上映している。
さらに「あなたのために映画をえらびます」という映画カウンセリングや、
目覚めた瞬間に思いついた映画を毎朝インスタグラムに投稿する「ねおきシネマ」など、
大胆かつ自由な発想で映画の楽しさを伝えている。
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