雪に閉ざされた街は、まるでおとぎの国のよう。
色彩を失ったまっしろな風景。街のいたるところにスノーマン。
こどもたちや犬はみんな大はしゃぎ。
何もかもが、うっとり、キレイに見えます。
アストリッド・リンドグレーン原作『やかまし村の春夏秋冬』のクリスマスのよう。
絵本のような世界。
今回は、そんな"雪につつまれた街"というファンタジーを、
リアルなストーリーとうまく融合した作品をご紹介します。
いまをときめく『ラ・ラ・ランド』のライアン・ゴズリングが
2006年に主演した『ラースと、その彼女』です。
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アメリカ中西部。
雪が降り積もる小さな田舎町に暮らすラースは、
シャイで女の子が大の苦手。
でも、人一倍優しくて純粋な心を持っている。
そんなある日、同じ敷地内に住む兄夫婦に、
ラースが「彼女を紹介するよ」と言って連れてきたのは、
等身大のリアルドール、ビアンカだった!
完全に正気を失ったと呆然とする兄のガス。
義姉カリンはかかりつけのダグマー医師に相談するが、
彼女は「ラースの妄想を受け入れ、ラースと話を合わせることが大切」と助言する。
住民たちもラースへの愛情から、ビアンカを生身の女性として扱うことに協力。
ビアンカの存在はいつしか人々の心を動かし、
住民同士の交流も深まっていくが…
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そんな、不思議な物語。
人とのふれあいが「痛い」と感じるラースと、
そんな彼の痛みが分からない人々が、
人形に命を吹き込むことによって少しずつつながっていく。
そんなあり得ないと感じる設定も、
"雪につつまれた街"というファンタジーの中で起こると、
不思議と、受け入れることができる。
もしこれが夏の日差しの中だったら、リアリティが強すぎて、
この設定自体に無理が出てきてしまうはず。
映画作りは料理と同じで、ストーリーという素材を引き立てるために、
ロケーション、衣装、音楽、演技などで味付けをし、
最高の味を目指していきます。
つまり、料理長にあたる人が、映画監督なんです。
同じ脚本を10人が監督したら、
きっと、タイプの違った10作品が出来ることでしょう。
そこが映画の面白いところ。
監督のひとつひとつの小さな決断が、
映画の世界を形作っていくわけです。
そういった意味で、『ラースと、その彼女』は、
リアルなファンタジーを表現するため、
とても細かいところまで目の行き届いた、
完成度の高い一本だと思います。
そんな作品をより楽しく鑑賞するには、
やはり、街が雪につつまれている日に
観るのがいいかもしれません。
ブランケットとココアを用意して、ひとり静かに。
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『ラースと、その彼女<特別編> 』
DVD 1,419円+税
発売中
20世紀フォックス ホーム エンターテイメント ジャパン
(c)2014 KIMMEL DISTRIBUTION, LLC. All Rights Reserved.
映画選定・執筆
キノ・イグルー
有坂塁
東京を拠点に全国のカフェ、パン屋、酒蔵、美術館、 無人島などで、世界各国の映画を上映している。
さらに「あなたのために映画をえらびます」という映画カウンセリングや、
目覚めた瞬間に思いついた映画を毎朝インスタグラムに投稿する「ねおきシネマ」など、
大胆かつ自由な発想で映画の楽しさを伝えている。
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