日本では、「サザエさん」のような"理想とする家族像"が、
ある時代まで当たり前のものとして共有されていたように思います。
父は名のある企業に勤めて、母は専業主婦。
子どもたちはいい大学へと入学し、
やがて父のような立派な会社へと就職する。
みたいな。
僕が子どもの頃にも、そういう価値観は色濃く残っていたものの、
我が家は完全にそのレールからは外れているような状況でした。
僕らが小学校・低学年のときに両親は離婚。
当時30代前半だった母は、
年齢の近い三人の子ども(双子&2歳下、みんな男)を、
女手一つで育てることを決断します。
人生初の就職活動に戸惑い、
ひとり親のため、家もなかなか貸してはもらえず、
いつしかお金が回らなくなり、生活保護を受ける…
そう書くと、とてもハードな人生に感じるかもしれませんが、
実際の僕たちはというと、他の子と何ら変わることなく、
すくすくと育っていました。
というのも、実は当時の状況を
僕たちは誰ひとり知らされていなかったのです。
それに加え、母から言われていたことは、
「好きなことを見つけて、トコトンやりなさい」
のひと言だけだったのです。
母は偉大なり。
そのおかげもあって、
僕たちはそれぞれに好きなことを見つけることができ(サッカー、映画、ファッション)、
今も幸せに暮らせているのだと思います。
この辺りの詳細は、
"母の日に母と2人でおこなったインスタライブ"でも話したので、
よかったらアーカイブをご覧ください。
(@kinoigluのアカウント内に、動画で保存されています)
家族には、それぞれの物語がある。
それは映画も然りで、古今東西、数多くのストーリーが描かれていますが、
今回は、とびっきりの"前衛的"な家族映画をご紹介したいと思います。
2014年のアメリカ映画『6才のボクが、大人になるまで。』
まずは内容からご確認ください。
***
メイソンは、テキサス州に住む6歳の少年。
キャリアアップのために大学で学ぶと決めた母オリヴィアに従って、
姉サマンサと共にヒューストンに転居した彼は、そこで多感な思春期を過ごす。
アラスカから戻って来た父メイソンSrとの再会、
母の再婚、義父の暴力、そして初恋。
周囲の環境の変化に時には耐え、時には柔軟に対応しながら、
メイソンは静かに子供時代を卒業していく。
やがて母は大学の教師となり、
オースティン近郊に移った家族には母の新しい恋人が加わる。
一方、ミュージシャンの夢をあきらめた父は保険会社に就職し、
再婚してもうひとり子供を持った。
12年の時が様々な変化を生み出す中、
ビールの味もキスの味も失恋の苦い味も覚えたメイソンは、
いよいよ母の元から巣立つ日を迎えることに…
***
この平凡な家族の日常を描いた作品の
どこが"前衛的"かというと…
それは、映画作りの「時間」のかけ方になります。
通常の映画撮影は、
日本映画だと3〜4週間、
ハリウッド映画なら2ヶ月程度と言われていますが、
本作は、なんと12年かけています。
もちろん、ずっと作り続けていたわけではありませんが、
同じ俳優が12年にもわたって同じ役を演じ続けるなんて、
ただ事ではありません。
主人公の6歳の男の子は、
時間経過とともに、みるみるうちに変化していきます。
自我に目覚め、声変わりをし、恋人ができる。
親たちは修羅場をくぐり、世の中は移り変わっていく。
やがて少年は18歳となり、
家族も12年分の時間の厚みを、様々な形で体現してくれます。
でも。
その作品はドキュメンタリーではないんです。
ここが面白い。
リアルな時間の流れを"フィクション"に取り込むという新しさ。
それは思いついても、簡単にできることではなく、
その点からも唯一無二、奇跡の一作と呼んでいいでしょう。
ぜひ、スタンダードな家族映画との違いを、
あなたの目でご確認いただければと思います。
************************************************
『6才のボクが、大人になるまで。』
Blu-ray: 2,075 円 (税込)
DVD: 1,572 円 (税込)
発売元: NBCユニバーサル・エンターテイメント
※2022年11月の情報です。
映画選定・執筆
キノ・イグルー
有坂塁
東京を拠点に全国のカフェ、パン屋、酒蔵、美術館、 無人島などで、世界各国の映画を上映している。
さらに「あなたのために映画をえらびます」という映画カウンセリングや、
目覚めた瞬間に思いついた映画を毎朝インスタグラムに投稿する「ねおきシネマ」など、
大胆かつ自由な発想で映画の楽しさを伝えている。
Instagram Web Site