20代の頃、働いていたビデオレンタル店で、
こんなコーナー組みを作ったことがあります。
「こどものせかい」
お店の中でも目立つことのないひっそりした場所に、
世界のこどもたちが主人公の映画を、ズラリ並べました。
棚の裏にラジカセを忍ばせ、フランスのトイミュージックを流しては、
他のコーナーとは異なる演出をしてみたり。
(そのときにかけていた「KLIMPEREI」というトイポップを聴きながら、この原稿を書いています)
キュートな音楽に誘われ、続々と棚の前に集まってくるお客さんたち。
彼女たちが手に取る映画は、たとえばこんな作品です。
友だちのうちにノートを届ける男の子を描いたイラン映画『友だちのうちはどこ?』
孤独な少年とハヤブサのお話『ケス』
イキイキしたこどもたちの日常のスケッチ『トリュフォーの思春期』
アストリッド・リンドグレーンの児童文学を映画化した『やかまし村の春・夏・秋・冬』。
あわせて、今回のお題と同じ《空想の世界》というミニコーナーも設けていました。
『ネバーエンディング・ストーリー』『ミツバチのささやき』
『キャメロット・ガーデンの少女』…
幻想的で、夢いっぱいな空想世界。
このコーナーは「こどものせかい」の中でもとりわけ人気が高く、
ビデオは常にフルレンタル状態でした。
このラインナップに加えてみたかったのが、今回ご紹介する『ユキとニナ』。
レンタルショップを離れてから公開された作品ですが、
当時であれば、たくさんのビデオを発注し、
推薦コメントやおしゃれなポップとともに、
《空想の世界》のエースとしてパワープッシュであろう作品。
キノ・イグルーとしても、
CLASKAルーフトップシネマで上映したことがある、
大変思い入れの強い一作になります。
***
ユキはフランス人の父と日本人の母とパリで暮らす9歳の女の子。
ある日、母が父と別れてユキと日本で暮らそうと考えていることを知りショックを受ける。
ユキは親友のニナと一緒に、両親の離婚を止めようと、
愛し合っていた頃を思い出してもらえるように
"愛の妖精"からと装って手紙を送るなど翻弄するが、上手くいかない。
ついには最後の手段として家出をした2人は、
やがて森へと迷い込んでしまう…
***
こどもの世界、こどもの気持ちを描いた、キュートで優しい映画。
なんですが、
2人でリヨンの田舎まで冒険に出かける辺りから、
ユキの見ている夢の中にいるような、ファンタジーの世界へと変化します。
リアルなパリだけでなく、ノスタルジックな日本も登場。
まるで『となりのトトロ』のような。
そんな不安定な世界観そのものに、こどもの繊細さと不自由さが感じられ、
観ていて不思議な感覚におそわれます。テンポも独特。
おまけに爽快な感動ではなく、観賞後に残るのは"心地いい違和感"。
このモヤモヤした気持ちに、
かわいいだけではないこどものリアルを感じるのは僕だけではないはず。
でも。
両親に宛てて"愛の妖精"からと称した手紙を書く健気さや、
お家の中でのテントごっこなど、キュートなシーンもたくさんあります。
2人の洋服やお部屋も、カラフルでおしゃれなので、
こども映画好きのみなさん、ご心配なく!
普通、こどもを描こうとすると、
大人っぽいか、こどもっぽいかのどちらかに寄りがちなので、
そういった意味でも貴重な作品ではないかなと思います。
トドメに主題歌が、UAがううあ名義で発表した、
沖縄民謡「てぃんさぐぬ花(はな)」で、ますます不思議な気持ちに…
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『ユキとニナ』
DVD 4,180円(税込)
発売元:ビターズ・エンド
販売元:バンダイナムコアーツ
© コム・デ・シネマ、レ・フィルム・デュ・ランドマン、アルテ・フランス・シネマ、ビターズ・エンド
映画選定・執筆
キノ・イグルー
有坂塁
東京を拠点に全国のカフェ、パン屋、酒蔵、美術館、 無人島などで、世界各国の映画を上映している。
さらに「あなたのために映画をえらびます」という映画カウンセリングや、
目覚めた瞬間に思いついた映画を毎朝インスタグラムに投稿する「ねおきシネマ」など、
大胆かつ自由な発想で映画の楽しさを伝えている。
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