「いまだに映画の上映やってるって、どういうこと!?」
2年前にバッタリ会った彼は、中学校時代の友人。
「いまだに」というのは、そこから遡ること15年前にこんなやりとりがあったから。
-------------------
28歳のときにおこなわれた同窓会。
そこで何十年ぶりかに、友人とも再会しました。
「大手企業で順調にキャリアアップしてるぜ」という彼。
「キノ・イグルーという移動映画館をはじめたんだ」というぼく。
彼は自信満々に「もうすぐ30なんだから現実を見ないと」、
「夢見てる年齢じゃないでしょ」と言うのです。
その場ではお茶を濁しましたが、
心の中では「人を、型にはめんなよ」と思っていました。
-------------------
あれから15年。
こうして移動映画館を生業したぼくと、変わらず大手企業に勤める彼。
しかし、状況は以前と違い
「お前はスゴイよ。好きなことを続けて、仕事にまでしてさ。
俺なんて仕事もプライベートもストレスだらけ。ハッキリ言っていつ辞めてもいいし」
なんて、ドラマみたいなことを言うのです。
でも、それもこれも、すべて自分で選んだことなんですね。
そしてここからの未来も、すべて自分で選べるわけです。
芯がありながらも、しなやかに。
心の変化を受け入れながら、前に進めばいいんじゃない?と、
ぼくがいうと、彼はキョトンとした顔をしていました。
でも、いまだったら間違いなく『グリーンブック』を観てと言います。
ドクター・シャーリーの生き様を観れば、すぐにわかるはずだから!と。
***
時は1962年、ニューヨークの一流ナイトクラブで用心棒を務めるトニー・リップは、
ガサツで無学だが、腕っぷしとハッタリで家族や周囲に頼りにされていた。
ある日、トニーは、黒人ピアニストの運転手としてスカウトされる。
彼の名前はドクター・シャーリー、カーネギーホールを住処とし、
ホワイトハウスでも演奏したほどの天才は、
なぜか差別の色濃い南部での演奏ツアーを目論んでいた。
二人は、〈黒人用旅行ガイド=グリーンブック〉を頼りに、出発するのだが─
***
この時代は、人種隔離(黒人は白人と同じ店で食事できないなど)が法律で認められていて、
人種差別が日常に溶け込んでいました。
そんな中シャーリーは、
特に人種差別意識の強いディープサウスのツアーに出かけるというのです。
上品で教養のある天才ピアニストと、粗暴なイタリア系用心棒。
そんな正反対の価値観を持つふたりが南部に挑む、というだけでワクワクしますが、
なんと!実話がベースになっているのだから驚きです。
シャーリーの受けてきた苦しみ、押し殺してきた様々な感情、
毅然とした態度でいなければならない苦しさ。
誰かに迷惑をかけたわけでも、悪さをしたわけでもないのに。
それでも彼の心は一切ぶれません。
変化を受け入れながらも、妥協することなく、前へ前へと進んでいきます。
芯がありながらも、しなやかに。
本作のすばらしいところは、
重いテーマを描きながらも、軽やかさとユーモアを忘れない部分。
笑えるシーンもいくつかありますし、"粋"なラストシーンまで待っています。
ぜひとも、おいしいフライドチキンをご準備の上(観ればわかります!)、
ディープサウスの旅を、お楽しいいただければと思います。
************************************************
『グリーンブック』
DVD 3,800円(税抜)
Blu-ray 4,800円(税抜)
発売中
発売・販売元:ギャガ
©2019 UNIVERSAL STUDIOS AND STORYTELLER DISTRIBUTION CO., LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
映画選定・執筆
キノ・イグルー
有坂塁
東京を拠点に全国のカフェ、パン屋、酒蔵、美術館、 無人島などで、世界各国の映画を上映している。
さらに「あなたのために映画をえらびます」という映画カウンセリングや、
目覚めた瞬間に思いついた映画を毎朝インスタグラムに投稿する「ねおきシネマ」など、
大胆かつ自由な発想で映画の楽しさを伝えている。
Instagram Web Site