「時間は前にしか進まない」

シンプル、かつ、意味深いお言葉。

瞬間のみが現実で、1秒前でさえ、過去である。

そう言うと刹那的にも感じますが、裏を返せば、

何があったって大丈夫、前を向いて生きていこう、

というポジティブなメッセージだと、ぼくは解釈しています。


一方、映画の中での時間というのはもっと自由です。

現実世界のように始まりから終わりに向けてという直線的なものもあれば、

過去と現在が行ったり来たりする『パルプ・フィクション』みたいな作品もあります。

今回ご紹介する『ふたりの5つの分かれ路』の場合は、

時間がなんと逆回転していきます。

どういうことか？

こういうことです。


＊＊＊

離婚手続きを終えたマリオンとジルは、小さなホテルの部屋で性急に肌を重ねる。

だが、虚しい錯覚に気づいたマリオンは、その場をすぐに立ち去る。

そして、時計の針は逆さまに回り出す。

ジルの兄とそのゲイの恋人をディナーに招いた日、マリオンの出産の日、

2人の結婚式の日、そして出会いの日へと遡り、

2人の歩んできた時間が次第に明らかになってゆく…

＊＊＊


そうなんです、本作は、終わりから始まり、出会いで終わる、

という風変わりなラブストーリーなんです。

「なんで私たちこんなことになっちゃったんだろう」という、

誰もが経験したことのある愛と別れの不思議を、

5つの重要な瞬間を遡りながら、考察していきます。


あの時、あの瞬間、あの言葉、あの態度、あの出会い…

原因はなに？出会いは必然？


結末がわかってるからこそ、

最初のきらきらした美しいはずの出会いが切なく見える。
そんな＂時間が前にしか進まない＂リアルな人生では、

絶対に味わえない感覚を本作では楽しむことができる。


もしですよ、この脚本が、

出会いから別れというオーソドックスな作りだったら、

よくある夫婦のお話になる。主人公に感情移入しながら観るタイプの。


ところが時間を逆回転にすると、

先に離婚するという結果がわかっている分、

なぜふたりはこうなってしまったのか？

という、恋愛についての考察になるんですね。

これって面白い。


同じ脚本でも、時間軸を変えるだけで、

全く違う作品を作ることができるんです。

新鮮な映画体験。さすがは、鬼才フランソワ・オゾン。


ぜひこの週末は、とびきり斬新な＂時間にまつわる物語＂を、

楽しんでみてはいかがでしょうか？


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『ふたりの5つの分かれ路』
DVD　1,143円（税抜）
発売・販売元：ギャガ
(C)2004 FIDELITE ‐FRANCE 2 CINEMA ‐FOZ