月に一回おこなっているイベント「あなたのために映画をえらびます」で、
ときどき、こんな質問をします。
「アクションやラブストーリーとかの定型ジャンル以外に、個人的なこだわりジャンルってありますか?」
そこで女性からよく上がるジャンルのひとつに"ダメ男もの"があります。
ぼくらから見ると身近すぎて心が痛くなる作品も、
女性目線で見ると母性が刺激される、ということになるそう。
そのジャンルの代表作は、ヴィンセント・ギャロ監督・主演作『バッファロー'66』(1998)。
刑務所帰りの繊細な男が少女を誘拐し、自分の両親の前で妻としてふるまうよう強制する。
よく考えたらすごい内容ですが、ギャロは本作で一躍スターダムへのし上がりました。
ヤクザが街で見かけた女子大生にひとめぼれし、いきなりその唇を奪う韓国映画『悪い男』(2001)や、
親の遺産のおかげで悠々自適に暮らすヒュー・グラント主演の『アバウト・ア・ボーイ』(2002)も、
このジャンルにおける秘かな人気作です。
じつは日本映画も、山下敦弘監督『どんてん生活』(1999) 以降、
充実したラインナップとなっているのですが、
今回はその中からとっておきの最新作をご紹介します。
柄本佑、石橋静河、染谷将太という若手実力派が集結した青春映画『きみの鳥はうたえる』です。
***
函館郊外の書店で働く「僕」は、失業中の静雄と小さなアパートで共同生活を送っていた。
ある日、「僕」は同じ書店で働く佐知子とふとしたきっかけで関係をもつ。
彼女は店長の島田とも抜き差しならない関係にあるようだが、その日から、毎晩のようにアパートへ遊びに来るようになる。
こうして、「僕」、佐知子、静雄の気ままな生活が始まった。
夏の間、3人は、毎晩のように酒を飲み、クラブへ出かけ、ビリヤードをする。
佐知子と恋人同士のようにふるまいながら、お互いを束縛せず、
静雄とふたりで出かけることを勧める「僕」。
そんなひと夏が終わろうとしている頃、みんなでキャンプに行くことを提案する静雄。
しかし「僕」は、その誘いを断り、キャンプには静雄と佐知子のふたりで行くことになる。
次第に気持ちが近づく静雄と佐知子。
函館でじっと暑さに耐える「僕」。3人の幸福な日々も終わりの気配を見せていた…
***
ぼくは本作を、2018年日本映画部門の第2位に選出しました。
(1位はHPでご確認を!)
この映画に関わるすべての人たちの「いい映画、作ったるで!」という気合いと志の高さ、
圧倒的な実力に心が震えました。
映像と役者の演技でここまで観せきるのは、そう簡単なことではありません。
普通はセリフに逃げたくなる。
一見、何も起こっていないように見えるストーリーの裏側では、様々な感情が渦巻いています。
三宅監督は、そのエネルギーこそを徹底的に撮りたくて、わかりやすい見せ場を作らなかったのだと思います。
そこを十二分に理解し、自然体かつハイレベルな演技力で答える若き名優たち。
中でも、何を考えてるのかさっぱりわからないダメ男を演じた柄本佑は、
彼の代表作として語り継がれていくに違いない名演技と、滲み出る男の色気で見る者を虜にします。
そんな不器用な男が下す、ラストの選択。
じつはここに、観ている側の恋愛観が試されます。
ぼくはその解釈について、友人と1時間以上にわたって議論しました。
あの表情の意味は、いったいどういうことなんだろう、と。
『きみの鳥はうたえる』という詩的なタイトルの映画は、
人間の複雑な感情と、取り返しのつかない時間を、
愚直なまでにストレートに描いた青春映画の傑作です。
これもまた、愛。
************************************************
『きみの鳥はうたえる』
Blu-ray 5,200円+税
DVD 3,800円+税
発売元:日活
販売元:TCエンタテインメント
©HAKODATE CINEMA IRIS
映画選定・執筆
キノ・イグルー
有坂塁
東京を拠点に全国のカフェ、パン屋、酒蔵、美術館、 無人島などで、世界各国の映画を上映している。
さらに「あなたのために映画をえらびます」という映画カウンセリングや、
目覚めた瞬間に思いついた映画を毎朝インスタグラムに投稿する「ねおきシネマ」など、
大胆かつ自由な発想で映画の楽しさを伝えている。
Instagram Web Site