"難解"と"おしゃれ"がせめぎ合い、
ワクワクする芸術作品を連発した60年代のジャン=リュック・ゴダール。
ぼくのまわりにもゴダールファンはたくさんいますが、
そのほとんどは"60年代の"と限定している人が多いです。
その理由は、70年代以降のゴダールは、思想が過激化し、
観客を突き放すような実験作ばかり作るようになったから。
ご丁寧なことに、彼は1967年8月、
商業映画との決別宣言文まで発表しているのです。
その輝ける時代と言ってもいい60年代の作品群ですが、
ざっくりと2つのタイプに分けることができます。
「カラフル」と「モノクロ」。
「カラフル」な作品群は、ポップなミュージカルコメディー『女は女である』や、
コケティッシュなアンナ・カリーナが堪能できる大傑作『気狂いピエロ』。
ファッション誌でも取り上げられることの多いこれらの作品は、
色彩感覚ふくめて、見るからにおしゃれ!
身につけているアイテムやスタイリングなど、
着こなしのヒントが、そこかしこに散りばめられています。
一方、「モノクロ」はというと、『小さな兵隊』や『アルファヴィル』など、
作品のトーンがすべてダークです。
物語自体も暗めですが、映像から感じる印象もクールなものばかり。
しかし、こちらは映像そのものがおしゃれなんです。
とにかく構図がパーフェクトで、
さながら動く写真集を見ているかのような"映像美"が楽しめます。
その中でも、際立ってゴダールの美意識が炸裂した作品といえば、
1962年の作品『女と男のいる舗道』になります。
男と女、ではなく、女と男。
主演はもちろん、彼のミューズであるアンナ・カリーナです。
***
前の夫と別れたナナは女優を夢見ているがなかなか芽が出ず、
レコード屋の店員として働いている。
ある日、行きずりの男を相手に売春をしたことをキッカケにこの道に入ることになり、
ヤクザのラウルがヒモとなっていた。
やがて彼女は若い男と恋に落ちるが、
その頃、ラウルはナナを別の売春組織に売り渡そうとしていた…
***
この物語を、ゴダールは12の章に分けて描きます。
そして面白いのが、「手紙 - 再びラウール - シャンゼリゼ大通り」という具合に、
各章すべてストーリーの概略を先に提示してしまうという大胆な構成となっているのです。
どんな物語に巻き込まれるのか?
という観客のワクワクした気持ちをあらかじめ拒絶しているようかのよう。
でもじつはそのおかげで、物語から解放され、
いつも以上に"映像"に対してアンテナを張っている自分に気がつくのです。
ビリヤード場で踊っているアンナ・カリーナ、
映画館で『裁かるるジャンヌ』を鑑賞しているときの彼女の涙、
風船を膨らませている奇妙な男、
通りの向こうにそびえ立つ凱旋門…
この映画には"美しすぎるワンシーン"は何度も登場します。
ひとつに絞るなんて不可能。
心揺さぶるカットの連続で、落ち着く暇がありません。
本作の画面サイズは、スタンダードと呼ばれる「4:3」。
これはインスタグラムでも使われる正方形に近いサイズになります。
その目線で観てみると、構図の力強さなど、
自分が写真を撮る際に参考になるシーンばかり。
そう、本作は映画として楽しむだけでなく、
あなたのSNSライフに役立つ作品でもあるのです。
特に人物の切り取り方は、あまりにカッコよすぎて、
すぐに真似したくなるはず!
早速この週末にでも、試してみてくださいね。
************************************************
『女と男のいる舗道』
Blu-ray 6,800円+税
DVD 4,800円+税
発売元:シネマクガフィン
販売元:紀伊國屋書店
©1962.LES FILMS DE LA PLEIADE.Paris
※画像はBlu-ray版です
※Blu-ray版は映像特典としてゴダール初期短編集『男の子の名前はみんなパトリックっていうの』『シャルロットとジュール』『水の話』収録
映画選定・執筆
キノ・イグルー
有坂塁
東京を拠点に全国のカフェ、パン屋、酒蔵、美術館、 無人島などで、世界各国の映画を上映している。
さらに「あなたのために映画をえらびます」という映画カウンセリングや、
目覚めた瞬間に思いついた映画を毎朝インスタグラムに投稿する「ねおきシネマ」など、
大胆かつ自由な発想で映画の楽しさを伝えている。
Instagram Web Site