キノ・イグルーの週末シネマ​ no.71
アイスと雨音|リアルな空気感息を呑む長まわのカバー画像

アイスと雨音|リアルな空気感息を呑む長まわし

文:キノ・イグルー 有坂塁

アイスと雨音|監督・脚本・編集:松居大悟(2017年・日本)

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2018年10月26日作成



映画はたくさんの「カット」の積み重ねでできています。


1カットの平均時間は、一般的に6、7秒と言われているのですが、

この適切な長さのカットで構成していくと、

観ている人に心地よいリズムが生まれます。


対して、ひとつのシーンでカットを割らずに撮影する「長回し」の場合、

役者やスタッフが絶対にミスできないということも含め、

まるで現実に起こっているものを観ているかのような緊張感や

臨場感が生まれてきます。


この長回しを自らのスタイルにしてしまったのが、

『雨月物語』(1953) の溝口健二であり、

『旅芸人の記録』(1975) のテオ・アンゲロプロスだったりするのです。

(超個性的な映画を作る人なので、ぜひ調べてみてください)


そして時代は、フィルムからデジタルへ。

こうなると、フィルム代を考えずに何分でも長回しが出来るようになったため、

かつてないほど、アグレッシブな長回し映画を作る人が出てきました。


そのなかで個人的にパワープッシュしたいのが、

本編75分をまるまるワンカットで撮影してしまった

『アイスと雨音』です。


***


あるイギリス戯曲が、日本で初めてとある小さな町で上演されることになる。

オーディションでそのキャストに選出されて意気込む6人の少年少女たちだったが、公演は中止になってしまう。

ショックに打ちひしがれる中、1人の少女が稽古しようとメンバーに持ち掛ける。

その呼びかけに奮起し、大人たちに上演中止撤回を迫るが事態は好転しそうもない。

どうしても舞台に立ちたい彼らは、本番予定だった日に劇場へ向かい…


***


というストーリーではあるのですが、

その物語る方法があまりに個性的なため、

とにかく観ていただくしかないかあ、と思っています。


本作の最大の魅力は、なんといっても

フィクションであると同時にドキュメンタリーでもあるという部分。


ミスが許されない75分。

ワンカットで撮影することで、演じている役者たちの緊張感が

肌感覚で伝わってきます。

しかもこの無謀な企画にチャレンジしたのは、まだ無名の若い俳優たち。

本作はそんな彼らが、全身全霊を傾けた青春の記録でもあるのです。


その果てに待っているのが、

"あの"感動的なラストシーン。

恥ずかしながら、ぼくは嗚咽しました。

自分もがんばらなきゃ、と心が震えました。


長回しという魔法は、自らの感覚を拡張してくれます。

体験してみる価値はあると思うので、

この週末、『アイスと雨音』でデビューしてはいかがでしょうか。


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『アイスと雨音』
DVD 3,800円(税抜)
Blu-ray 4,800円(税抜)
発売中
発売・販売元:バップ
(C)「アイスと雨音」実行委員会

映画選定・執筆

有坂塁
キノ・イグルー 
有坂塁
キノ・イグルーは、2003年に有坂塁が渡辺順也とともに設立した移動映画館。
東京を拠点に全国のカフェ、パン屋、酒蔵、美術館、 無人島などで、世界各国の映画を上映している。
さらに「あなたのために映画をえらびます」という映画カウンセリングや、
目覚めた瞬間に思いついた映画を毎朝インスタグラムに投稿する「ねおきシネマ」など、
大胆かつ自由な発想で映画の楽しさを伝えている。
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