映画はたくさんの「カット」の積み重ねでできています。
1カットの平均時間は、一般的に6、7秒と言われているのですが、
この適切な長さのカットで構成していくと、
観ている人に心地よいリズムが生まれます。
対して、ひとつのシーンでカットを割らずに撮影する「長回し」の場合、
役者やスタッフが絶対にミスできないということも含め、
まるで現実に起こっているものを観ているかのような緊張感や
臨場感が生まれてきます。
この長回しを自らのスタイルにしてしまったのが、
『雨月物語』(1953) の溝口健二であり、
『旅芸人の記録』(1975) のテオ・アンゲロプロスだったりするのです。
(超個性的な映画を作る人なので、ぜひ調べてみてください)
そして時代は、フィルムからデジタルへ。
こうなると、フィルム代を考えずに何分でも長回しが出来るようになったため、
かつてないほど、アグレッシブな長回し映画を作る人が出てきました。
そのなかで個人的にパワープッシュしたいのが、
本編75分をまるまるワンカットで撮影してしまった
『アイスと雨音』です。
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あるイギリス戯曲が、日本で初めてとある小さな町で上演されることになる。
オーディションでそのキャストに選出されて意気込む6人の少年少女たちだったが、公演は中止になってしまう。
ショックに打ちひしがれる中、1人の少女が稽古しようとメンバーに持ち掛ける。
その呼びかけに奮起し、大人たちに上演中止撤回を迫るが事態は好転しそうもない。
どうしても舞台に立ちたい彼らは、本番予定だった日に劇場へ向かい…
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というストーリーではあるのですが、
その物語る方法があまりに個性的なため、
とにかく観ていただくしかないかあ、と思っています。
本作の最大の魅力は、なんといっても
フィクションであると同時にドキュメンタリーでもあるという部分。
ミスが許されない75分。
ワンカットで撮影することで、演じている役者たちの緊張感が
肌感覚で伝わってきます。
しかもこの無謀な企画にチャレンジしたのは、まだ無名の若い俳優たち。
本作はそんな彼らが、全身全霊を傾けた青春の記録でもあるのです。
その果てに待っているのが、
"あの"感動的なラストシーン。
恥ずかしながら、ぼくは嗚咽しました。
自分もがんばらなきゃ、と心が震えました。
長回しという魔法は、自らの感覚を拡張してくれます。
体験してみる価値はあると思うので、
この週末、『アイスと雨音』でデビューしてはいかがでしょうか。
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『アイスと雨音』
DVD 3,800円(税抜)
Blu-ray 4,800円(税抜)
発売中
発売・販売元:バップ
(C)「アイスと雨音」実行委員会
映画選定・執筆
キノ・イグルー
有坂塁
東京を拠点に全国のカフェ、パン屋、酒蔵、美術館、 無人島などで、世界各国の映画を上映している。
さらに「あなたのために映画をえらびます」という映画カウンセリングや、
目覚めた瞬間に思いついた映画を毎朝インスタグラムに投稿する「ねおきシネマ」など、
大胆かつ自由な発想で映画の楽しさを伝えている。
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