まずは、アンニュイの意味をおさらい。
Weblioによると
「退屈さ、物憂さ、気だるさ等がない交ぜになった気分。
あるいは、そのような(つまらなさそうな、物憂げな、愁いを含んだような)雰囲気のある様子」とあります。
文字化することが難しい、"気分や雰囲気"を定義した言葉。
よってニュアンスは人によって異なりますが、
でも誰がどう見たって「アンニュイ!」と言いきれてしまう人もいるんですよね。
日本人で言うと、
小松菜奈、桃井かおり、松田龍平、栗原類。
いずれも、替えが効かない唯一無二の俳優さん。
儚げな佇まいに、憂鬱な表情。
アンニュイというのは滲み出てしまうものであって、
演技力でカバーできるものではありません。
つまり、アンニュイは替えが効かない。
逆を言えば、作品世界にうまく馴染めないと、
その存在自体がノイズになってしまうリスクだってあるわけです。
アンニュイなヒロイン。
このカテゴリーのトップオブトップと言うと、
満場一致で、フランスのジャンヌ・モローということになるでしょう。
アンニュイという言葉自体を彼女から学んだ、という人がいるほど、
映画ファンの間では、伝説となっている大女優です。
紹介する作品は、もちろん『死刑台のエレベーター』。
彼女の代表作のひとつであり、
ヌーヴェルヴァーグのきっかけを作ったとも言われる傑作です。
内容は、こんな感じとなっています。
***
土地開発会社に勤める技師ジュリアンは社長夫人フロランスと通じており、
邪魔な社長を殺す完全犯罪を目論んでいた。
だが社内で社長を殺した帰途、
残してきた証拠に気づいたジュリアンは現場へ戻ろうとするが、
週末で電源を落とされたエレベーター内に閉じ込められてしまう。
しかも会社の前に置いてあった車は、
若いカップルに無断で使われており、彼らは彼らで別の犯罪を引き起こしていた…
***
本作は、ルイ・マル監督が弱冠25歳の若さで作り上げ、
その完成度、洗練度の高さから、その年で最も優れたフランス映画に贈られる
ルイ・デリュック賞を受賞する快挙を成し遂げました。
そして同じように、本作で一躍、世界に知られる女優となったのが、
ジャンヌ・モローでした。このとき29歳。
口角が下がった独特の表情と、唯一無二のクールな魅力。
当時、一世を風靡していたオードリー・ヘップバーンのような正統派美人というタイプではなく、
知的で、ミステリアス、自立した大人の女性を演じられる本格派女優。
顔つきや眼差しに宿る聡明さや信念は、演技では出せない"本物"でした。
その彼女が、夜のサンジェルマン・デ・プレを彷徨うシーンが、格別に素晴らしく。
マイルス・デイヴィスのクールなトランペットが鳴り響く、シャープなモノクロ世界を、
物憂げなジャンヌ・モローが、ただただ徘徊します。
映像と音楽と俳優の存在感。
総合芸術としての映画の魅力が炸裂した数分間となっていますので、
どうぞ注目してみてください。
その美しさに心を奪われてしまうはずです。
本作がきっかけでジャンヌのファンになった方がいたら、
次はフランソワ・トリュフォー監督『突然炎のごとく』(1962) がオススメです。
本作とは少しタイプの異なる、
自由奔放で煌めくように美しいジャンヌがお楽しみいただけますので。
(でも影があることで、役に深みを与えてる)
もし、『死刑台のエレベーター』に近いジャンヌをお求めであれば、
『エヴァの匂い』(1962) がオススメ。
こちらでは、幸せな男を破滅へと導く冷酷な魔性の女を演じているので、
必ず満足いただけるはずです。
ぜひ、二本立て、三本立てでお楽しみください!
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『死刑台のエレベーター HDリマスター版』
DVD 4,180円(税込)
発売・販売元:株式会社アネック
© 1958 Nouvelles Editions de Films
映画選定・執筆
キノ・イグルー
有坂塁
東京を拠点に全国のカフェ、パン屋、酒蔵、美術館、 無人島などで、世界各国の映画を上映している。
さらに「あなたのために映画をえらびます」という映画カウンセリングや、
目覚めた瞬間に思いついた映画を毎朝インスタグラムに投稿する「ねおきシネマ」など、
大胆かつ自由な発想で映画の楽しさを伝えている。
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