「ハワイの空気がこんなにおいしいなんて思いもしませんでした。」
と言ったのは、『ホノカアボーイ』で、
印象に残るビーさんを演じた倍賞千恵子さん。
およそ同じ世界とは思えないハワイ島の美しい風景と、
爽やかな風、そしておいしそうなごはん。
この映画には、いまのぼくたちが癒しと考える、
すべての要素が詰まっているように感じます。
思いっきりきれいな空気をすって、深呼吸して、リラックスしたい。
そう考える方々に、もってこいな1本なのです。
はじめてなのになつかしい不思議な町、ホノカア。
この優しさにあふれた世界は、
なんでもない日常にさえも愛おしさを感じられる今だからこそ、
あなたの心に、より大きな潤いを与えてくれるはず…
***
他人との距離がうまくとれないレオは、
彼女に言われるままにハワイ島に旅行にくる。
夜かかる月の虹がみたい。そう言ったのは彼女のほうだった。
「ハワイ島とハワイってちがうんですけど。」
不機嫌な彼女と無口なレオ。ギクシャクした旅。
都合悪くなるとすぐ黙る。レオの悪いところ。
半年後、レオはその旅の途中でであったホノカアで暮らしていた。
人生なにがどうなるかわからない。
ホノカアの映画館で映写技師の助手をしながら。
そんなある日、レオは町で一番有名ないたずらヘンクツばあさんに出会う。
ビーとの出会いはちょっとした事件だった。
「明日から毎日ここで晩御飯たべていきなさい。」
そのひとことがすべての始まりだった。
ビーはレオの存在がうれしかった。
おいしそうにゴハンを食べる男の子。猫以外に突然現れた家族のような存在。
毎日のゴハンはふたりにしかわからない言葉のようで。
優しい毎日は、ビーをかわいくした。素直にした。
そんなある日。レオは恋をする。よく笑う女の子マライア。
マライアの存在が、やがて事件をひきおこすなんて思いもしないで。
***
「あそこで風が吹くから、ホノカアであるわけですから。」
そう言ったのは、原作者であり、レオのモデルにもなった吉田玲雄さん。
彼は映画制作にはほぼノータッチながらも、
"ハワイ島での撮影"にはこだわったそう。
理屈をどこかに預けて、心で感じてもらいたい。
そのためには、彼が実際に暮らしたホノカア村の空気を
偽りなくフィルムに収めることが大切と考えたそうです。
空気を映像に収める。
その大役となる撮影監督を任されたのが、写真家の市橋織江さんです。
このキャスティングが素晴らしかった!
もともと、彼女の写真というのは、風景の中に人をとらえたものが多いです。
それは映像でも変わらず、引きのカットを多用することで、
ホノカアの空気を画面に閉じ込めていきます。
それに加えて、彼女の特徴でもあるパステル調でやわらかな色彩は、
どこかノスタルジックでもあり、ホノカアの雰囲気とも相性が抜群なのです。
おまけに、そこに寄り添う
「青柳拓次×阿部海太郎」コラボ楽曲のなんと心地いいこと!
やさしい旋律は、風景と見事に溶け合って、
ホノカアの空気や風までも、ぼくたちのもとへ運んできてくれるのです。
人生に疲れたなぁと感じる方も、ホノカアでひと休みすれば大丈夫。
ハワイの揚げドーナツ"マラサダ"があれば、もっと大丈夫。
立ち止まりながらでもいいから、無理をせず、ゆっくりと前へ進んでいきましょう。
深呼吸をしながら。
「ハワイハワイと来てみたけれど お里恋しや つきのにじ
ハワイハワイと来てみたけれど あなた恋しや つきのにじ」
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『ホノカアボーイ』
DVD 4,700円+税
発売元:フジテレビジョン/電通
販売元:ポニーキャニオン
©2009 FUJITELEVISION/DENTSU/ROBOT
映画選定・執筆
キノ・イグルー
有坂塁
東京を拠点に全国のカフェ、パン屋、酒蔵、美術館、 無人島などで、世界各国の映画を上映している。
さらに「あなたのために映画をえらびます」という映画カウンセリングや、
目覚めた瞬間に思いついた映画を毎朝インスタグラムに投稿する「ねおきシネマ」など、
大胆かつ自由な発想で映画の楽しさを伝えている。
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