たどり着いてくれてありがとう~
誰かと出会うたび、心のなかでそう呟いてしまいます。
「キノ・イグルー」では、立ち上げてからの17年間、
一度も営業をしたことがありません。完全受注型です。
企画書を書いたり、営業の電話はせずに、受け身で仕事のオファーを待つ。
でもただぼーっとするのではなく、日々を全力で120%楽しみながら。
すると不思議なもので、楽しそうなところには人が集まってくるのです。
こうして"求められる"状況から、ぼくはすべてのお仕事を始めています。
だから、たどり着いてくれてありがとうなのです。
出会いにはベストなタイミングがある。
ぼくの場合、前のめりに行ってしまうと、出会うことはできても関係が深まらない。
相手に気を使いすぎて、自分らしくいられなくなってしまう。
それじゃあ、仲良くなれるわけがありません。
でもこれは、ぼくの出会い方の法則。
あなたは?
伊坂幸太郎と斉藤和義の夢のような交流から誕生した原作を持つ
『アイネクライネナハトムジーク』は、
そんな出会いのバリエーションと"その先"までを丁寧に描いた作品。
劇場公開時は思ったほど話題にならなかったですが、とても爽やかな感動作になっています。
内容はこんな感じ。
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仙台駅前。
大型ビジョンには、日本人のボクシング世界王座をかけたタイトルマッチに沸く人々。
そんな中、この時代に街頭アンケートに立つ会社員・佐藤の耳に、ふとギターの弾き語りが響く。
歌に聴き入る紗季と目が合い思わず声をかけると、快くアンケートに応えてくれた。
二人の小さな出会いは、妻と娘に出て行かれ途方にくれる佐藤の上司・藤間や、
分不相応な美人妻・由美と娘・美緒を持つ佐藤の親友・一真、
その娘の同級生・和人の家族、
由美の友人で、声しか知らない男に恋する美容師・美奈子らを巻き込み、
10年の時をかけて奇跡のような瞬間を呼び起こす─。
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DVDのジャケットを見る限り、
三浦春馬と多部未華子がメインのお話に感じるかもしれませんが、
じつのところ、みんなが主役と言ってもいい群像劇となっています。
群像劇はキャストが多い分、上映時間が長くなるか、人物描写が平坦になりがちなのですが、
本作は個性をきちんと立たせながらも、上映時間は119分に収められています。
しかも小さなエピソードの積み重ねを、後半で一気に回収してくれる仕掛けが機能していて、
映画として抜群におもしろい!
みんなの人生がロンドのようにつながっていく気持ち良さもあるんです。
さすがは、恋愛群像劇の名手・今泉力哉。
「映画化するならぜひ!」と伊坂幸太郎から直々にラブコールを受けたことも
納得のクオリティに仕上がっています。
「あの時の出会いが、いまにつながっている」
そう思えることって、年齢を重ねるおもしろさのひとつだと思います。
映画の冒頭で、三浦春馬演じる佐藤は「出会いがない」と愚痴をこぼしますが、
友人のおかげで彼は変わることができた。
そういうちょっとした言葉や出会いによって誰かの人生は前へと進むのだし、
時には大きく変わるんだよということを、この映画は優しく教えてくれます。
出会いやきっかけに感謝したくなる。
思いがけない絆で佐藤とつながっていく様々な人たちが、
愛と勇気と幸福感に満ちた奇跡を呼び起こしてくれますので、どうぞお楽しみに。
鑑賞後には、包み込むような暖かな余韻が、あなたを待っています。
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『アイネクライネナハトムジーク』
DVD 3,800円(税別)
発売・販売元:アミューズソフト
© 2019「アイネクライネナハトムジーク」製作委員会
映画選定・執筆
キノ・イグルー
有坂塁
東京を拠点に全国のカフェ、パン屋、酒蔵、美術館、 無人島などで、世界各国の映画を上映している。
さらに「あなたのために映画をえらびます」という映画カウンセリングや、
目覚めた瞬間に思いついた映画を毎朝インスタグラムに投稿する「ねおきシネマ」など、
大胆かつ自由な発想で映画の楽しさを伝えている。
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