キノ・イグルーの週末シネマ​ no.258
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湯を沸かすほどの熱い愛|ぐっと心をつかまれる親子の絆を描いた物語

文:キノ・イグルー 有坂塁

湯を沸かすほどの熱い愛|監督:中野量太(2016年・日本)

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2022年05月27日作成



愛娘のておちゃんは、

日々、天使とおじさんを行ったり来たりして、

僕たちを楽しませてくれています。


この世のものとは思えないかわいさ(親バカ)を見せた次の瞬間、

くたびれたお相撲さんみたいになったり。

そのくるくると変化する表情を眺めているのが、愛おしくて、楽しくて。

目に入れても痛くない、とはこのこと。

もう、何時間でも見ていられます。


そんな1歳5ヶ月になる娘が生まれて以降、

家族の距離感にも変化が生まれました。

互いの両親と会う回数が急増したことはもちろん、

うちの場合、男ばかりの3兄弟とも頻繁に連絡を取り合うようになりました。


特に子ども好きな2歳下の弟は、

「今日ランチに行っていい?(ておに会いに行っていい?と同意)」と、

突然連絡をしてきたりします。

もともと、我が道を突っ走るシャイなタイプで、

自分から連絡してくることなんて一度もなかったのに…


でもそうやって、しなやかに自分を変えられる姿が、かっこよく。

大いに刺激を受けた僕も、福岡に住む双子の兄と

"人生初のサシ飲み"をしに行ったりしたのでした笑


変化とともに深まる、家族の絆。

それを共有できることの喜びを、日々感じています。


さて。
そんな我が家でも話題になった家族映画のひとつが、

『湯を沸かすほどの熱い愛』です。

2016年と最近の作品ではありますが、

もはや日本の家族映画史において

"クラシック"と位置付けてよい名作なのではないでしょうか。


主演は、大女優・宮沢りえ。

まずは、内容から確認してみましょう。


***


銭湯・幸の湯を営む幸野家。

しかし、父が1年前にふらっと出奔し銭湯は休業状態。

母・双葉は、持ち前の明るさと強さで、パートをしながら娘を育てていた。

そんなある日突然、

余命2ヶ月という宣告を受ける。

その日から彼女は「絶対にやっておくべきこと」を決め実行していく。

・家出した夫を連れ帰り家業の銭湯を再開させる

・気が優しすぎる娘を独り立ちさせる

・娘をある人に会わせる

その母の行動は、家族からすべての秘密を取り払うことになり、

彼らはぶつかり合いながらもより強い絆で結びついていく。

そして家族は、究極の愛をこめて、母を葬ることを決意する。


***


本作を語る際、"泣ける"というキーワードを外すことはできません。

映画レビューサービスFilmarksでも、

「泣ける」というワードが最も多くレビューで使われた作品を調査した結果、

『湯を沸かすほどの熱い愛』が"泣ける"映画No.1に輝いたのだそう。

かく言う僕も、泣きました。

いや、泣くでは全然足りないな。号泣ですね。

嗚咽を堪えるのに必死なほど、

上映中、心を揺さぶられ続けてしまいました。


前半のシーンでいえば…

学校でいじめられている娘を母が叱咤激励するあの場面は、

号泣ポイントの一つです。


"気が優しすぎる娘を独り立ちさせる"ため、あえて厳しい態度で接する母。

親の真っ直ぐな愛を、必死に受け止めようと頑張る娘。

ブレることのない宮沢りえの肝っ玉母さんぶりもさることながら、

やはり号泣してしまうのは、感受性豊かな杉咲花の素晴らしさに尽きます。


彼女は、受けの芝居が本当に上手。

ふと見せる苦悶の表情や震える体など、

言葉に置き換えられない感情を全身を使ってリアルに表現します。

小説ではなし得ない、映画ならではの感情表現。


宮沢りえは、彼女との初対面を振り返り、こう語っています。

「うそのない人だなって。

自分の心の奥底のものも一緒に放出しないと、

太刀打ちできないぞと思いましたね」。


百戦錬磨の大女優にここまで言わしめてしまう杉咲花。

まさに天才です。


昔、この2人が登壇した上映会に参加したことがあるのですが、

杉咲花は役柄同様に宮沢りえを「お母ちゃん」と呼んでいました。

本当の親子のような親密な空気が流れていて、

何だかとても嬉しかったことを覚えています。


そんな愛情深い"お母ちゃん"と娘を軸にしたこの物語は、

先程のエピソード後も、二転三転し、泣きに泣いた挙句、

驚愕のラストを迎えます。

誰もが予想だにできない驚きのラストは、あなたの目でご確認ください。


親子の絆に触れたい方にピッタリな家族映画の決定版。

この週末にいかがでしょうか。


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『湯を沸かすほどの熱い愛』
DVD通常版 ¥4,180
Blu-ray通常版 ¥5,280
発売元:クロックワークス
販売元:TCエンタテインメント
(C)2016「湯を沸かすほどの熱い愛」製作委員会

映画選定・執筆

有坂塁
キノ・イグルー 
有坂塁
キノ・イグルーは、2003年に有坂塁が渡辺順也とともに設立した移動映画館。
東京を拠点に全国のカフェ、パン屋、酒蔵、美術館、 無人島などで、世界各国の映画を上映している。
さらに「あなたのために映画をえらびます」という映画カウンセリングや、
目覚めた瞬間に思いついた映画を毎朝インスタグラムに投稿する「ねおきシネマ」など、
大胆かつ自由な発想で映画の楽しさを伝えている。
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