キノ・イグルーの週末シネマ​ no.212
アルファヴィル|どこで撮影したんだろう映画と調和するランドスケーのカバー画像

アルファヴィル|どこで撮影したんだろう映画と調和するランドスケープ

文:キノ・イグルー 有坂塁

アルファヴィル|監督・脚本:ジャン=リュック・ゴダール(1965年・フランス)

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2021年07月09日作成



どこの場所で、撮影したのか。

そこにはっきりとした"意味"を持たせる映画と、そうでない作品があります。


前者で言えば、『パラサイト 半地下の家族』。

韓国独特の居住空間かつ、

格差社会の象徴ともいえる"半地下住宅"と"高台の大豪邸"を通して

現代の闇を炙り出す、言わずと知れたオスカー受賞作。

おまけにその韓国的な"高低差"を一種の映像体験として楽しませることで、

世界的大ヒットにつなげてしまったのだから驚きました。


後者で言うなら、『グランド・ブタペスト・ホテル』。

舞台は、ズブロフカ共和国という架空の国ですが、

ヨーロッパの東の果てにあり、かつて帝国の中心として栄えたとされているため、

"あの国"だろうということは想像できます。

けど、言い切らないことでリアリティが薄まり、

ポップな"ウェス・アンダーソン・ワールド"を構築することに成功。

おとぎ話のような世界観。


今回の『アルファヴィル』の場合はというと、

人工知能アルファ60(前回に続いて、人工知能!)によって

支配される銀河都市が舞台なので、後者と同じタイプなのですが、

兎にも角にも、その描き方が秀逸!

ということでピックアップさせていただきました。

その手があったか!という視点の面白さに満ちた一作です。


まずはストーリーからご確認ください。


***


銀河系星雲都市・アルファヴィルに秘密諜報員レミー・コーポレーションが到着する。

彼の任務は、連絡を絶った諜報員アンリを探し出すことと、

アルファヴィルに亡命した科学者ブラウン教授の救出、あるいは抹殺だった…


***


この銀河都市・アルファヴィルは、

言論統制など行き過ぎた管理社会として描かれているのですが、

まったく持って現代にも通じる話でゾッとします。

この60年、世界は本質的に変わっていなかったのでしょうか…

(そんなことない!と思いたい)


そして、本作を紹介したいと思った最大の理由。

それは、セットやミニチュアなどの特殊効果を使用することなく、

"SF映画"を作ってしまった!というところです。


60年代パリの建築物の実景のみを利用して仕立て上げられた、

アルファヴィルという架空都市。

モノクロのカメラだけで勝負するという潔さ。

そんな大胆不敵なSF映画、聞いたことありません。


天才ゴダールは、予算を言い訳にせず、

"低予算なりに作れる方法があるはず"と思考をスライドさせます。

でも実際のところは、相当なチャレンジだったと思います。

やっぱりSF映画は"世界観"こそが命で、

ここが機能しないことには、ストーリーもメッセージも観客の心には届きません。

違和感を感じてしまったらおしまい。

だからこそ、世界中から優秀なスタッフを雇い、

セットやキャラクターなどのディテールを丹念に作り込んでいくわけです。

しかし、ゴダールは賭けに勝ちました。

大きな円形の建物、長方形のビル、

クラシカルなホテルという、ありもののパリ。

それらを映し出す映像は冷たいモノクロームの画質で統一し、

機械音のようなナレーションを画面に響かせ、

SF映画には珍しいハードボイルド映画のストーリーテリングをそこに組み合わさる。

それら全てが化学反応を起こして、

稀代の天才にしか作ることのできない銀河都市を誕生させてしまったのです。

スイス生まれのゴダールの目には、

もともと未来都市として映っていたということなのでしょうか。


翌年、彼は『未来展望』(1967)という20分の短編で、

オルリー空港を舞台にSF映画を作りました。

これこそ『アルファヴィル』で確かな手応えを感じた証なのではないでしょうか

(主演は同じく、アンナ・カリーナ)


特撮的なギミックに頼らなくても、SFは作れる。

そんな"映画的な嘘"の魅力を再確認できる、ベルリン映画祭金熊賞・受賞作。

大胆さに痺れます。


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『アルファヴィル』
Blu-ray 2,750円(税込)
発売・販売元:KADOKAWA

映画選定・執筆

有坂塁
キノ・イグルー 
有坂塁
キノ・イグルーは、2003年に有坂塁が渡辺順也とともに設立した移動映画館。
東京を拠点に全国のカフェ、パン屋、酒蔵、美術館、 無人島などで、世界各国の映画を上映している。
さらに「あなたのために映画をえらびます」という映画カウンセリングや、
目覚めた瞬間に思いついた映画を毎朝インスタグラムに投稿する「ねおきシネマ」など、
大胆かつ自由な発想で映画の楽しさを伝えている。
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