著名な女優さんに「ずっと好きでした」と告白される。
拮抗したサッカーの試合に「頼むから出場してくれ」と懇願される。
これは、悲しいかな、ぼくがよく見ている夢です。
こうやって言葉にするのも、ほんと、はずかしい…。
夢は一般的に「記憶」の集まりだと言われています。
これまでに見聞きしたりや経験したことがいくつもつなぎ合わさり、
それらがストーリー化され、夢となる。
でもぼくの場合、どちらの経験もありません。だとしたら、なんでだろう。
でも、夢というのは、意味を追わないほうが面白いですよね。
映画で言うと、『ツイン・ピークス』や
『マルホランド・ドライブ』を撮ったデヴィッド・リンチの魅力って、そこにある。
ストーリーがわかりそうでわからない。
つじつまがあわないんだけど何か楽しい。
意味不明なヘンテコな夢を見てる感覚こそが、
リンチ作品最大の魅力であり、夢の面白さだと思います。
意味から解放される気持ちよさでもあるのかな。
さて今回は、そんな夢に"まつわる"物語とのこと。
実際に考えてみたのですが、映画の場合「じつは夢でした」という夢オチのものが、
思いのほか多くて困ります。
たとえば、こんな夢オチ。
「妻を殺害した上で火星に逃亡し、そこで共産主義革命が起こる。
しかし妻殺害も火星への逃亡もじつはすべてが夢であった」
これだと、夢ものです、と言った時点でネタバレになりますよね。
そんなときに、思い出しました!
キノ・イグルーでも上映したことがある、映画と夢を積極的に混同させようとしたあの作品を!
それが『キートンの探偵学入門』です。
***
映画館で映写技師として働くキートンは、
恋仇きの策略によって恋人の前で泥棒呼ばわりされて意気消沈。
上映中にうたた寝して映画の中へ入って行った彼は、
そこで名探偵シャーロックJr.となって悪漢相手に大活躍を繰り広げる…
***
とにかく"夢"のシークエンスが秀逸。
暴走するオートバイのハンドルに座ってスタントをこなすドキドキのアクションシーンや、
ビリヤードを使った、切れ味鋭いギャグ、
思わずスタンディングオベーションしたくなるおしゃれなオチなど、見どころ満載!
しかも、これだけ詰めこんで上映時間はたったの44分です。
教科書のような作品!
鑑賞者は、そもそも夢の話だとわかっているから、
どんなハチャメチャなことが起こったって成立する。
夢オチのようなインパクトはないですが、とても知的なアプローチだと思います。
ちなみに、ウディ・アレンの『カイロの紫のバラ』(1985) は、
ウディが本作にオマージュを捧げて作った作品であったりもします。
今週末は、ぜひこの2本立て鑑賞なんて、いかがでしょう?
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『キートンの探偵学入門 デジタルリマスター版』
DVD 1,999円
メディアディスク株式会社
映画選定・執筆
キノ・イグルー
有坂塁
東京を拠点に全国のカフェ、パン屋、酒蔵、美術館、 無人島などで、世界各国の映画を上映している。
さらに「あなたのために映画をえらびます」という映画カウンセリングや、
目覚めた瞬間に思いついた映画を毎朝インスタグラムに投稿する「ねおきシネマ」など、
大胆かつ自由な発想で映画の楽しさを伝えている。
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