「車と拳銃、男と女さえいれば映画は撮れる」と豪語し、
デビュー作『勝手にしやがれ』(1959) でそれを実践。
瞬く間に映画史における最重要人物となったジャン=リュック・ゴダール監督。
彼は当時、スターと高額予算に頼る映画作りに異議を唱えていて、
この言葉は「映画というのは、そもそもシンプルなものなんだ」という
彼なりの映画論を語ったのではないかと思いますが、
実際、そのコメントに当てはまる傑作はたくさん存在して。
1940~50年代に作られたハリウッド犯罪映画の数々に始まり、
『俺たちに明日はない』(1967) 、『ハネムーン・キラーズ』(1970)、
『地獄の逃避行』(1973) など。
他にも知名度は高くはないものの、
ケイシー・アフレックとルーニー・マーラが共演した
『セインツ -約束の果て-』(2013) という作品もあります。
こちらは、テキサスを舞台にした悲劇的な愛のお話で、
現代版『俺たちに明日はない』とも称される印象に残る一作。
実はこの作品を撮った人物こそが、
今回紹介する『さらば愛しきアウトロー』の監督であるデヴィッド・ロウリー。
アメリカ「バラエティ」誌による
2013年「注目監督10人」の一人としても選出された、若き個性派です。
彼の監督第5作目にあたる作品は、このような内容になっています。
***
時は1980年代初頭、アメリカ。
ポケットに入れた拳銃をチラリと見せるだけで、
微笑みながら誰ひとり傷つけず、目的を遂げる銀行強盗がいた。
彼の名はフォレスト・タッカー、74歳。
被害者のはずの銀行の窓口係や支店長は彼のことを、
「紳士だった」「礼儀正しかった」と口々に誉めそやす。
事件を担当することになったジョン・ハント刑事も、
追いかければ追いかけるほどフォレストの生き方に魅了されていく。
彼が堅気ではないと感じながらも、心を奪われてしまった恋人もいた。
そんな中、フォレストは仲間のテディとウォラーと共に、
かつてない"デカいヤマ"を計画し、まんまと成功させる。
だが、"黄昏ギャング"と大々的に報道されたために、
予想もしなかった危機にさらされる─。
***
これは、斬新な作品です。
というのも、通常、銀行強盗の"逃避行もの"は、
ほとんどが破滅型の主人公になります。
実在の強盗ボニー&クライドを描いた『俺たちに明日はない』のように、
追いすがる警官に銃を向け、逃げ切ったと思いきや、
ラストで夢破れ、射殺されてしまう。
自滅していく姿は甘美なものでもあり、そこには"ロマン"があるわけです。
しかし、本作のフォレスト・タッカーは違います。
「楽に生きるなんてどうでもいい。楽しく生きたい」と言う彼にとって、
銀行強盗もその後の脱獄も、ただ楽しく生きるためにあるのです。
銃もぶっ放さないし、破滅したりもしない。
子どもの頃から、強盗と脱獄を繰り返すという根っからの犯罪者ながら、
紳士的で茶目っ気があり、見た目にもかっこいい。
そんなスマートすぎる銀行強盗、観たことありません。
おまけにこの役には、モデルがいるというのだから驚きます。
破滅型の作品であれば後半になるにつれて深刻さを増しますが、
本作は、後半に行くほど軽妙さを増していきます。
そういった意味において『さらば愛しきアウトロー』は、
これまでの"逃避行もの"の常識を覆す、衝撃作なのです。
フォレスト・タッカーを演じたロバート・レッドフォードは、
本作を持って俳優引退。
世紀をまたいで活躍したキャリアの集大成がこの役だなんて、かっこ良すぎます。
そして。
ゴダールが言うように、車と拳銃、男と女さえいれば、
やっぱり映画は撮れるのですね。
完璧な引退作。
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『さらば愛しきアウトロー』
Blu-ray 5,280円(税込)
DVD 4,180円(税込)
発売中
発売・販売元:バップ
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映画選定・執筆
キノ・イグルー
有坂塁
東京を拠点に全国のカフェ、パン屋、酒蔵、美術館、 無人島などで、世界各国の映画を上映している。
さらに「あなたのために映画をえらびます」という映画カウンセリングや、
目覚めた瞬間に思いついた映画を毎朝インスタグラムに投稿する「ねおきシネマ」など、
大胆かつ自由な発想で映画の楽しさを伝えている。
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