90年代に巻き起こったミニシアターブームの中で、
格段の輝きを放ったのがウォン・カーウァイの『恋する惑星』。
誰もが味わったことのある切なさやときめきなど"恋する感覚"を、
新鮮なまま閉じ込めたかのようなオリジナリティあふれる世界観に、
世の若者たちは大熱狂。
かのクエンティン・タランティーノ監督もそのひとりで、
彼は設立したばかりの映画会社「ローリング・サンダー」で配給権を獲得し、
なんとアメリカ公開にまでこぎつけるという入れ込みよう。
1995年は、世界中の若者たちが『恋する惑星』の熱にうなされていたのです。
***
警官223号のモウは、香港の街の雑踏で、金髪にサングラスの女とすれ違う。
彼女は麻薬ディーラーで、インド人を運び屋にしてブツの受け渡しをしていた。
やがて再び出会った2人は、ホテルに一緒に泊まることになるのだが…
警官663号は、とある飲食店の常連客。
彼をふって出ていった前の恋人から、部屋の鍵の入った彼宛ての手紙をことづかった新しい店員のフェイは、
以来、警官663号の部屋にひそかに忍び込むようになる。
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という本作の見どころは、
なんといっても黒髪ベリーショートのフェイ・ウォン。
ファストフード店で働く彼女は、ママス&パパスの「夢のカリフォルニア」を
大音量でかけながらノリノリで働く不思議ちゃん。
恋をした彼女は、警官の部屋へ忍び込み、勝手に模様替えを始めたり、
ラーメンを作って食べて器を洗って戻したりと、
妄想のなかでの同棲を楽しみます。
でも実際に彼と鉢合わせしてしまうと、
驚きのあまり、足がつっちゃったりするところが、なんともいじらしい。
あまりに不器用なフェイの一途な恋に、
観ているぼくらも気がついたら夢中になってしまうのです。
(『アメリ』(2001)で、主人公が好きな人の部屋に忍び込んでしまうエピソードは本作が元ネタではないかと…)
では最後に、この映画の素敵すぎるキャッチコピーを。
こちらは劇中にも登場する名言なのですが、
きっとこのロマンティックな言葉だけで観たくなってしまうはず!です。
「その時、彼との距離は0.1ミリ。57時間後、彼は彼女に恋をした。
その時、ふたりの距離は0.1ミリ。6時間後、彼女は彼に恋をした。」
映画選定・執筆
キノ・イグルー
有坂塁
東京を拠点に全国のカフェ、パン屋、酒蔵、美術館、 無人島などで、世界各国の映画を上映している。
さらに「あなたのために映画をえらびます」という映画カウンセリングや、
目覚めた瞬間に思いついた映画を毎朝インスタグラムに投稿する「ねおきシネマ」など、
大胆かつ自由な発想で映画の楽しさを伝えている。
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