最高だったかはさておき、
個人的に印象に残るデート話からさせていただきます。
20代前半の頃、映画女優の方とデートをしました。
といっても、お付き合いしていたわけでもなく、
恋愛感情があったかもわからない、そんな時期のお話。
彼女は、デビューまもない映画俳優で、
新人とは思えない堂々とした佇まいが印象的な人でした。
当時、主演を務めた2作目の映画が、
ミニシアター系の劇場でスマッシュヒットを飛ばし、
海外の映画祭でもグランプリを受賞。
映画ファンの間でも話題になりつつあったその時期、
僕の勤めていたビデオレンタル店のお客さんでもあったのです。
彼女とは、『シベールの日曜日』(1962) というフランス映画をオススメしたことで親しくなり、
やがて、一緒に映画を観に行くことに。
「"変わった"映画が観たいです」というリクエストを受け、
ロベール・ブレッソン監督『抵抗(レジスタンス)』(1956)を観に行ったのですが、
これが大正解!
というのも、"変わっていた"のは映画の内容だけではなかったのです。
まず会場が、映画館ではなく、埼玉県志木市にあった【学習塾】でした。
(なぜそこで、映画会が催されていたかは不明)
その手狭な空間に16mmフィルムの映写機がポツンと置いてあり、
映写技師という名の塾長さんが、丁寧に上映をしてくれます。
カタカタ。
カタカタ。
静かに鳴り響く、映写機の音。
お客さんは、僕ら2人だけで、隣にいるのは映画女優。
どこかの世界に迷い込んだような不思議な空間で、
まるで映画のワンシーンのような感覚に陥ったことを今でも覚えています。
そんなデートの思い出。彼女は、元気にしてるかなぁ。
映画にも素敵なデートシーンはたくさん登場します。
中でも、個人的にベストデートのひとつ!
と断言したくなるのが、『はじまりのうた』の夜の散歩です。
詳細は後ほど。
まずは内容からご確認をお願いします。
***
元売れっ子音楽プロデューサーのダン。
いつしか時代に取り残され、
ついには自分が設立したレコード会社をクビになってしまう。
失意のまま飲み明かし、酔いつぶれて辿り着いたバーで、
ふと耳に飛び込んできた女性の歌声に心を奪われる。
小さなステージで歌を披露していたのは、
恋人と別れたばかりのシンガー・ソングライターのグレタ。
いまだ悲しみに暮れている彼女に一緒にアルバムを作ろうと提案するダンだったが…
***
音楽がつなぐ予想外の出会いと運命。
この映画の良き点は、"音楽"そのものをとてもポジティブに、
愛を持って描いているところにあります。
それを象徴するのが、まさにデートシーン。
ダンとグレタの2人は、ともに悲しい出来事を経験していて、
ディナーでそれぞれの境遇を話し、少しずつ心の距離が近づいていきます。
そのタイミングでの、夜のニューヨーク散歩。
これだけでも十分ロマンティックな上に、
彼らはプレイリストを一緒に聴きながら、
煌びやかなタイムズスクエアを散歩するんですよ!
くーー!最高!
互いのプレイリストを聴き合うだなんて、
自分を見透かされるようで照れ臭いものですが、
それもあって2人の距離は急接近。
"音楽"の存在そのものが、2人の心を近づけるわけです。
そしてこのシーン…
ひとつのイヤフォンをシェアした方が、よりロマンティックになるにも関わらず、
スプリッター(別々のヘッドフォンで同じ音楽をシェアできる分配器)を使ってるんですね。
プロの音楽家が主人公だからこその小道具ということで、
こんなところにも溢れんばかりの音楽愛を感じてしまうのです。
「音楽は魔法だ。」
と信じるジョン・カーニー監督による、最高のデート映画。
ぜひ大切な人と一緒に、ご覧になってみてください。
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『はじまりのうた BEGIN AGAIN』
DVD 4,180円(税込)
Blu-ray 5,170円(税込)
デジタル配信中
https://Movie.lnk.to/hajimariTW
発売・販売元:ポニーキャニオン
©2013 KILLIFISH PRODUCTIONS, INC. ALL RIGHTS RESERVED.
映画選定・執筆
キノ・イグルー
有坂塁
東京を拠点に全国のカフェ、パン屋、酒蔵、美術館、 無人島などで、世界各国の映画を上映している。
さらに「あなたのために映画をえらびます」という映画カウンセリングや、
目覚めた瞬間に思いついた映画を毎朝インスタグラムに投稿する「ねおきシネマ」など、
大胆かつ自由な発想で映画の楽しさを伝えている。
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