キノ・イグルーの週末シネマ​ no.103
牯嶺街少年殺人事件|輝きを失わない台湾映画の名のカバー画像

牯嶺街少年殺人事件|輝きを失わない台湾映画の名作

文:キノ・イグルー 有坂塁

牯嶺街少年殺人事件|監督:エドワード・ヤン(1991年・台湾)

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2019年06月07日作成



みなさんは「台湾映画」をご覧になったことはありますか?

ゆっくりとした時間感覚で、日常を丁寧に描いた作品の多い台湾映画は、

いまや世界各国で愛されています。

しかし、台湾映画が世界に注目され始めたのは、1980年代前半のこと。

今からたった35年ほど前になります。


そしてこのときが、まさに台湾映画の変革期だったのです。

低迷していた現状を変えるぞーと乗り出したのは、何と政府!

そしてその文化改革が、物の見事に、身を結ぶこととなるのです。


台湾社会を深く掘り下げつつ、芸術性の高い映画が次々と生まれ、

のちに、その一連の運動は「台湾ニューシネマ」と名付けられることになります。

その中心人物こそがエドワード・ヤン監督。

中でも彼の代表作『牯嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件』は、

世界中にビッグインパクトをもたらせた伝説の作品なのです。


***


1960年代初頭の台北。

建国中学昼間部の受験に失敗して夜間部に通う小四(シャオスー)は

不良グループ"小公園"に属する王茂(ワンマオ)や

飛機(フェイジー)らといつもつるんでいた。

小四はある日、怪我をした小明(シャオミン)という少女と保健室で知り合う。

彼女は小公園のボス、ハニーの女で、

ハニーは対立するグループ"217"のボスと、小明を奪いあい、

相手を殺して姿を消していた。

ハニーの不在で統制力を失った小公園は、

今では中山堂を管理する父親の権力を笠に着た滑頭(ホアトウ)が幅を利かせている。

小明への淡い恋心を抱く小四だったが、

ハニーが突然戻ってきたことをきっかけにグループ同士の対立は激しさを増し、

小四たちを巻き込んでいく…


***


この物語は、台湾で実際に起こった事件に着想を得ていて、

少年少女の青春のきらめきや残酷さを、

じっくりと4時間かけて観せてくれます。


登場人物の感情やストーリー展開など、全体的に説明が少ないため、

ハリウッド作品や日本映画に慣れている方は、とまどいを感じるかもしれません。

ただ時間の経過とともに、

自らが「クーリンチェ」の世界へ迷い込んでしまったことに気づいたとき、

あなたは、その世界の緻密な美しさに惚れ惚れしてしまうはず。

そして覚めることのない余韻を、ぼくたちの心に残してくれるのです。


そんな本作が、どれだけのインパクトを与えたかというと、

BBCが1995年に選出した「21世紀に残したい映画100本」に台湾映画として唯一選ばれたり、

2015年釜山映画祭で発表された「アジア映画ベスト100」において、

『東京物語』『七人の侍』などと並んでベスト10入り。

さらに、マーティン・スコセッシやウォン・カーウァイが激賞…

といった具合です。


4時間は長すぎる…という気持ちはよくわかります。

でも長い人生の中で考えれば、"たった"の4時間です。

それだけの時間と心を捧げるだけの価値が、この映画にはある!

そう感じているのは、ぼくだけではないのです。


************************************************
『牯嶺街少年殺人事件』
DVD:6,380円
発売元:株式会社ハピネットファントム・スタジオ
販売元:株式会社ハピネット・メディアマーケティング
(C)1991 Kailidoscope

映画選定・執筆

有坂塁
キノ・イグルー 
有坂塁
キノ・イグルーは、2003年に有坂塁が渡辺順也とともに設立した移動映画館。
東京を拠点に全国のカフェ、パン屋、酒蔵、美術館、 無人島などで、世界各国の映画を上映している。
さらに「あなたのために映画をえらびます」という映画カウンセリングや、
目覚めた瞬間に思いついた映画を毎朝インスタグラムに投稿する「ねおきシネマ」など、
大胆かつ自由な発想で映画の楽しさを伝えている。
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