みなさんは「台湾映画」をご覧になったことはありますか?
ゆっくりとした時間感覚で、日常を丁寧に描いた作品の多い台湾映画は、
いまや世界各国で愛されています。
しかし、台湾映画が世界に注目され始めたのは、1980年代前半のこと。
今からたった35年ほど前になります。
そしてこのときが、まさに台湾映画の変革期だったのです。
低迷していた現状を変えるぞーと乗り出したのは、何と政府!
そしてその文化改革が、物の見事に、身を結ぶこととなるのです。
台湾社会を深く掘り下げつつ、芸術性の高い映画が次々と生まれ、
のちに、その一連の運動は「台湾ニューシネマ」と名付けられることになります。
その中心人物こそがエドワード・ヤン監督。
中でも彼の代表作『牯嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件』は、
世界中にビッグインパクトをもたらせた伝説の作品なのです。
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1960年代初頭の台北。
建国中学昼間部の受験に失敗して夜間部に通う小四(シャオスー)は
不良グループ"小公園"に属する王茂(ワンマオ)や
飛機(フェイジー)らといつもつるんでいた。
小四はある日、怪我をした小明(シャオミン)という少女と保健室で知り合う。
彼女は小公園のボス、ハニーの女で、
ハニーは対立するグループ"217"のボスと、小明を奪いあい、
相手を殺して姿を消していた。
ハニーの不在で統制力を失った小公園は、
今では中山堂を管理する父親の権力を笠に着た滑頭(ホアトウ)が幅を利かせている。
小明への淡い恋心を抱く小四だったが、
ハニーが突然戻ってきたことをきっかけにグループ同士の対立は激しさを増し、
小四たちを巻き込んでいく…
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この物語は、台湾で実際に起こった事件に着想を得ていて、
少年少女の青春のきらめきや残酷さを、
じっくりと4時間かけて観せてくれます。
登場人物の感情やストーリー展開など、全体的に説明が少ないため、
ハリウッド作品や日本映画に慣れている方は、とまどいを感じるかもしれません。
ただ時間の経過とともに、
自らが「クーリンチェ」の世界へ迷い込んでしまったことに気づいたとき、
あなたは、その世界の緻密な美しさに惚れ惚れしてしまうはず。
そして覚めることのない余韻を、ぼくたちの心に残してくれるのです。
そんな本作が、どれだけのインパクトを与えたかというと、
BBCが1995年に選出した「21世紀に残したい映画100本」に台湾映画として唯一選ばれたり、
2015年釜山映画祭で発表された「アジア映画ベスト100」において、
『東京物語』『七人の侍』などと並んでベスト10入り。
さらに、マーティン・スコセッシやウォン・カーウァイが激賞…
といった具合です。
4時間は長すぎる…という気持ちはよくわかります。
でも長い人生の中で考えれば、"たった"の4時間です。
それだけの時間と心を捧げるだけの価値が、この映画にはある!
そう感じているのは、ぼくだけではないのです。
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『牯嶺街少年殺人事件』
DVD:6,380円
発売元:株式会社ハピネットファントム・スタジオ
販売元:株式会社ハピネット・メディアマーケティング
(C)1991 Kailidoscope
映画選定・執筆
キノ・イグルー
有坂塁
東京を拠点に全国のカフェ、パン屋、酒蔵、美術館、 無人島などで、世界各国の映画を上映している。
さらに「あなたのために映画をえらびます」という映画カウンセリングや、
目覚めた瞬間に思いついた映画を毎朝インスタグラムに投稿する「ねおきシネマ」など、
大胆かつ自由な発想で映画の楽しさを伝えている。
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