20年ほど前、テクノロジーに強い友人から
「これからのアニメはCGが主流になるよ」と言われたとき、
ぼくはその予測を起こり得ないものとして、シャットアウトしました。
だって、手描きが大好きだから。もしその通りになってしまったら、
手描きの文化が消えてしまうと本気で思ったから。
そこへ彗星のように現れたのが『トイ・ストーリー』。
劇場用の長編映画として、
初のフルCGアニメーションという触れ込みで大々的に公開され、大ヒット。
そこから始まったピクサーの快進撃。
それに倣うように各映画会社もCGアニメの製作を開始。
そして2013年には、最後の砦だったディズニーが、
つい手描きアニメーションから撤退すると発表したのです。(※1)
こう書くと、風前の灯にも見える手描きアニメーションですが、
じつはそんなこともなく、水面下では、デジタル世代による手描きアニメなど、
新たなアナログ作品はたくさん作られ続けているのです。
今回はその中でも、強烈すぎる一本
『ゴッホ 最期の手紙』をご紹介しようと思います。
***
無気力な日々を過ごしていた青年アルマン・ルーランは、
郵便配達人の父、ジョゼフ・ルーランから1通の手紙を託される。
それは、父の親しい友人で、
1年ほど前に自殺したオランダ人画家、フィンセント・ファン・ゴッホが
弟・テオに宛てて書いたまま出し忘れていたもの。
パリに住んでいるはずのテオを探し出して、
手紙を届けてやってほしいという。
アルマンは願いを聞き入れてパリへと旅立つ。
テオの消息をつかめないまま画材商のタンギー爺さんを訪ねると、
そこで聞かされたのは意外な事実だった。
兄の死にうちひしがれたテオは、半年後その理由を自問しながら、
後を追うように亡くなったというのだ。
そして、アルマンはゴッホが最期の日々を過ごした
オーヴェール=シュル=オワーズでゴッホの死の真相を探ることとなる…
***
本作では、そんなゴッホの謎に満ちた死の真相を、
動く油絵で表現していきます。
これはどういうことかというと、
まず、俳優たちが役を演じる実写映画を撮影します。
それを特別なシステムでキャンパスへ投影し、
なんと125名もの画家たちが"ゴッホ・タッチ"の油絵で表現。
1秒作るのに12枚もの油絵が必要で、
結果的に計62,450枚も描いたのだそうです(上映時間95分!)
もうこれは、手間暇かかってるなんて言葉では表現できない代物です。
世界初となる、この驚きの手描きスタイルは、
アニメの基本「誰も見たことがない世界を見せたい」という気概が感じられ、
とても好感が持てます。
CGと手描き。どっちがいいではなく、どっちもいい。
時代は巡り、表現が変わるだけ。
それなら冒頭のような変なこだわりは捨てて、
その時代からしか生まれ得ない表現を楽しんだ方が、
楽しいのではないでしょうか?
(※1)『モアナと伝説の海』の一部に、手描きキャラクターが登場。
どうやら完全撤退ではないようです。
************************************************
『ゴッホ 最期の手紙 スペシャル・プライス』
DVD:4,290円
Blu-ray:5,280円
発売元:パルコ
販売元:株式会社ハピネット・メディアマーケティング
(C) Loving Vincent Sp. z o.o/ Loving Vincent ltd.
映画選定・執筆
キノ・イグルー
有坂塁
東京を拠点に全国のカフェ、パン屋、酒蔵、美術館、 無人島などで、世界各国の映画を上映している。
さらに「あなたのために映画をえらびます」という映画カウンセリングや、
目覚めた瞬間に思いついた映画を毎朝インスタグラムに投稿する「ねおきシネマ」など、
大胆かつ自由な発想で映画の楽しさを伝えている。
Instagram Web Site