キノ・イグルーの週末シネマ​ no.62
ゴッホ 最期の手紙 | あたたかい線に魅せられて手描きアニメの世のカバー画像

ゴッホ 最期の手紙 | あたたかい線に魅せられて手描きアニメの世界

文:キノ・イグルー 有坂塁

ゴッホ 最期の手紙 | 監督・脚本:ドロタ・コビエラ、ヒュー・ウェルチマン(2017年・イギリス/ポーランド)

3
2018年08月24日作成



20年ほど前、テクノロジーに強い友人から

「これからのアニメはCGが主流になるよ」と言われたとき、

ぼくはその予測を起こり得ないものとして、シャットアウトしました。

だって、手描きが大好きだから。もしその通りになってしまったら、

手描きの文化が消えてしまうと本気で思ったから。


そこへ彗星のように現れたのが『トイ・ストーリー』。

劇場用の長編映画として、

初のフルCGアニメーションという触れ込みで大々的に公開され、大ヒット。

そこから始まったピクサーの快進撃。

それに倣うように各映画会社もCGアニメの製作を開始。

そして2013年には、最後の砦だったディズニーが、

つい手描きアニメーションから撤退すると発表したのです。(※1)


こう書くと、風前の灯にも見える手描きアニメーションですが、

じつはそんなこともなく、水面下では、デジタル世代による手描きアニメなど、
新たなアナログ作品はたくさん作られ続けているのです。


今回はその中でも、強烈すぎる一本

『ゴッホ 最期の手紙』をご紹介しようと思います。


***


無気力な日々を過ごしていた青年アルマン・ルーランは、

郵便配達人の父、ジョゼフ・ルーランから1通の手紙を託される。

それは、父の親しい友人で、

1年ほど前に自殺したオランダ人画家、フィンセント・ファン・ゴッホが

弟・テオに宛てて書いたまま出し忘れていたもの。

パリに住んでいるはずのテオを探し出して、

手紙を届けてやってほしいという。

アルマンは願いを聞き入れてパリへと旅立つ。

テオの消息をつかめないまま画材商のタンギー爺さんを訪ねると、

そこで聞かされたのは意外な事実だった。

兄の死にうちひしがれたテオは、半年後その理由を自問しながら、

後を追うように亡くなったというのだ。

そして、アルマンはゴッホが最期の日々を過ごした

オーヴェール=シュル=オワーズでゴッホの死の真相を探ることとなる…


***


本作では、そんなゴッホの謎に満ちた死の真相を、

動く油絵で表現していきます。

これはどういうことかというと、

まず、俳優たちが役を演じる実写映画を撮影します。

それを特別なシステムでキャンパスへ投影し、

なんと125名もの画家たちが"ゴッホ・タッチ"の油絵で表現。

1秒作るのに12枚もの油絵が必要で、

結果的に計62,450枚も描いたのだそうです(上映時間95分!)

もうこれは、手間暇かかってるなんて言葉では表現できない代物です。


世界初となる、この驚きの手描きスタイルは、

アニメの基本「誰も見たことがない世界を見せたい」という気概が感じられ、

とても好感が持てます。


CGと手描き。どっちがいいではなく、どっちもいい。

時代は巡り、表現が変わるだけ。

それなら冒頭のような変なこだわりは捨てて、

その時代からしか生まれ得ない表現を楽しんだ方が、

楽しいのではないでしょうか?


(※1)『モアナと伝説の海』の一部に、手描きキャラクターが登場。
どうやら完全撤退ではないようです。


************************************************
『ゴッホ 最期の手紙 スペシャル・プライス』
DVD:4,290円
Blu-ray:5,280円
発売元:パルコ
販売元:株式会社ハピネット・メディアマーケティング
(C) Loving Vincent Sp. z o.o/ Loving Vincent ltd.

映画選定・執筆

有坂塁
キノ・イグルー 
有坂塁
キノ・イグルーは、2003年に有坂塁が渡辺順也とともに設立した移動映画館。
東京を拠点に全国のカフェ、パン屋、酒蔵、美術館、 無人島などで、世界各国の映画を上映している。
さらに「あなたのために映画をえらびます」という映画カウンセリングや、
目覚めた瞬間に思いついた映画を毎朝インスタグラムに投稿する「ねおきシネマ」など、
大胆かつ自由な発想で映画の楽しさを伝えている。
Instagram    Web Site

バックナンバー

アプリ限定!
12星座占い、天気予報と気温に合わせたコーデをお楽しみいただけます

お買いものも
キナリノアプリで◎

キナリノアプリ

「これが好き」「これが心地よい」と感じてもらえるお買いもの体験と情報を。自分らしい暮らしがかなう、お買いものメディア

App Store バナーGoogle Play バナー