自分に馴染みのない世界に心を開くのは簡単なことではありません。
ましてやそれが、強烈なこだわりと、
熱いハートを持った人たちの集まる世界だったら、なおさら。
ワイン、車、オーディオ…
「私なんかが気軽に踏み込んではいけない…」
そう思うのは、ごく自然なことだと思います。
かくいうぼくも、映画へのこだわりを必要以上に言葉にしては、
周りが全力で引いていたことを昨日のように覚えています。
(20代前半。ハリウッドなんか映画じゃないと平気で口にしてました。
『クール・ランニング』で映画に目覚めたくせに)
こういった昔のぼくのように、
圧が強すぎるこだわり人は「映画」で観るに限ります。
作品内の人物なら、安心の距離感で観察できるし、
プレッシャーをかけられる心配もない。
『スクール・オブ・ロック』のデューイは、
そのタイプの筆頭とも言える人物。
ロックが好きすぎるうえに、アクが強い。めんどくさい。
絶対に近くに居てほしくない!と思うタイプですが、
気がつくと、彼のロック魂の虜になってしまうのだから不思議なのです。
こんなお話。
***
自信家のギタリスト、デューイは自己中心的な性格と
行動がたたってバンドをクビに。
また、親友ネッドのアパートから
家賃の滞納が原因で追い出されそうになるが、
ネッドに名門私立小学校の仕事が舞い込み、
デューイは勝手に代用教員になりすまして出勤。
学校は厳格な校風で生徒たちも真面目。
やがて一部の生徒に音楽の才能があると知ったデューイは
彼らにロックバンドを結成させ、
コンテストに出場させて賞金を稼ごうと思いつく…
***
どうですか、ひどい話でしょ?笑
でも、安易にいい話に持っていかないこの展開こそ、ポイントなんです。
お金が目当てでバンドを結成させる。
つまり、子どもを利用する。そこで一度彼をキライになれるから、
その後のギャップに感動できるわけです。
ロックしか知らない彼の授業は、大半がバンド練習に費やされます。
小学生たちに楽器を持たせ、
ハードロックの雄、ディープ・パープルの「スモーク・オン・ザ・ウォーター」を教え込む。
知識もなければいけない!ということで、
ロック史やロック相関図を熱く解説する。
授業のあとは、宿題と称してCDを配布。
ボーカルにはピンク・フロイドの「狂気」、
ギターにはジミ・ヘンドリックスの「アクシス:ボールド・アズ・ラヴ」を、
と担当ごとに別の音源を用意する、というまさかの熱の入れよう。
そう、いつの間にか彼はロックをただの自己満足から、
世界とつながるための手段、つまり"武器"にすることが出来たのです。
ここがいい!
子どもたちけでなく、ダメ男と呼ばれそうな大人だって成長できるんだよ!
というリンクレイター監督の優しい眼差しに、
ついつい、涙してしまうような作品になっているのです。
演じるは、実際のロック・ミュージシャンでもあるジャック・ブラック。
本物のミュージシャンでないと放てない彼のロック好きオーラや、
心揺さぶる最高のパフォーマンスを、存分に楽しんでくださいね。
飲める方は、ビールと一緒に!音量は、もちろん爆音で!
Let's ROCK!!
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『スクール・オブ・ロック』
DVD(スペシャル・コレクターズ・エディション) 1,429円+税
Blu-ray 1,886円+税
発売元:NBCユニバーサル・エンターテイメント
※2019年8月の情報です。
映画選定・執筆
キノ・イグルー
有坂塁
東京を拠点に全国のカフェ、パン屋、酒蔵、美術館、 無人島などで、世界各国の映画を上映している。
さらに「あなたのために映画をえらびます」という映画カウンセリングや、
目覚めた瞬間に思いついた映画を毎朝インスタグラムに投稿する「ねおきシネマ」など、
大胆かつ自由な発想で映画の楽しさを伝えている。
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