みなさん、お元気ですか?
おこもり時間、どのように過ごしているでしょうか?
こういう時間がつづくと、
自分でも気付いていなかったことや、
大切なものが何なのか、わかる気がします。
「映画のおもしろさを思い出しました」
というコメントをインスタグラムにいただきました。
ひさしく映画から離れていたけど、
動画配信サービスを使って、
懐かしいものから
昔では観なかったアメコミ系まで、
幅広く観ています!と。
何から何まで楽しいです!と。
映画は万能です。
現実逃避にもなれば、学びにもなる。
物語に没入しながらも、
目と耳にまでよい刺激を与えてくれている。
自動的に、無意識に、
あなたの感性は磨かれているのです。
本日紹介する作品は、
そんな感性を刺激してくれるタイプの最高峰
『パンチドランク・ラブ』です。
PTAという略称を持つポール・トーマス・アンダーソンは、
アメリカ人にしてはめずらしく、
"映像+音楽"を物語と同じくらい重要視している監督です。
『マグノリア』や『ブギーナイツ』も刺激的でしたが、
本作は、映画と現代アートの境界線に生まれ落ちたような
クレイジーかつキュートな一作となっています。
内容は、こんな感じ。
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バリーは、トイレの詰まりを取る吸盤棒をホテル向けに販売しているセールスマン。
彼はしばしば自分の感情をコントロールできずに暴れ出してしまうなど、
精神面で問題を抱えていた。
そんなある朝、会社に出勤してきたバリーは、
隣の修理屋に車を預けにきたリナと出会う。
実は彼女はバリーの姉の同僚で、
バリーの写真を見て一目惚れし、
車の修理を口実に彼の様子を見に来たのだった。
やがて2人は親密になっていくが…
***
この物語は、PTAがアダム・サンドラーのために書き、
2人でアイデアを出し合って
パンチの効いたバリーというキャラクターを生み出したのだそう。
パンチドランク・ラブとは 、
"強烈なひと目惚れ"という意味。
バリーは「これは一生に一度の恋なんだ!」と、
この運命の恋のために文字通り突っ走ります
(実際にスクリーンの中を走る!走る!)
ここが本作の面白いところで、
このひと目惚れからの恋の暴走を、
ストーリーと同じレベルで
"映像+音楽"を使ってアグレッシブに表現します。
まるで現代アートのように。
視覚的に言うと、ジェレミー・ブレイクによる
虹のようなデジタル・ペインティングが随所に挿入されます。
プリズムで拡散されたような光線と、抽象的なアートワーク。
恋するふたりのパンチドランク・ラブが
視覚的に理解できるようになっています。
音楽を担当したのは、PTAの盟友ジョン・ブライオン。
初期のPTA作品に始まり、
『エターナル・サンシャイン』や『レディ・バード』、
ミランダ・ジュライの『ザ・フューチャー』まで、
新進気鋭のクリエイターから愛されるコンポーザーです。
本作では、映画音楽ではなく、
サウンド・デザインと言った方がしっくりくるほど、
映画全体に影響を与えています。
さまざまな音をサンプリングした、めくるめく音のコラージュ。
映像と音がここまで高いレベルで共存している作品は、
そう滅多にあるものではありません。
ラブストーリーとして"共感"させる気が全くない分、
すべてが大胆不敵で、観る人を選ぶ作品となっています。
監督が音楽家の才能に惚れ、音楽家が120%で答える。
この壮大なる実験作をもって、
PTAとジョン・ブライオンのコンビは終了。
伝説の第2章となるレディオヘッドのジョニー・グリーンウッドとのコンビは、
ここから幕を開けたのです。
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映画選定・執筆
キノ・イグルー
有坂塁
東京を拠点に全国のカフェ、パン屋、酒蔵、美術館、 無人島などで、世界各国の映画を上映している。
さらに「あなたのために映画をえらびます」という映画カウンセリングや、
目覚めた瞬間に思いついた映画を毎朝インスタグラムに投稿する「ねおきシネマ」など、
大胆かつ自由な発想で映画の楽しさを伝えている。
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