監督自らが作る「半自伝的映画」って
秘かなお気に入りジャンルだったりします。
だって、このラインナップを見てください!
アルフォンソ・キュアロン『ROMA/ローマ』
グレタ・ガーウィグ『レディ・バード』
ルイ・マル『さよなら子供たち』
キャメロン・クロウ『あの頃ペニー・レインと』
ミシェル・ゴンドリー『グッバイ、サマー』
パッとあげただけでも、それぞれの人生の豊かさが滲み出ている、
目の覚めるような名作ばかりです。
しかし、自分の人生を、自らの手で映画化するって、
どういう気持ちなんでしょう。
主人公のキャスティングは、いつも以上に悩むのか。
美術や衣装は、当時のものを忠実に再現したいのか。
ロケ先は、やっぱり地元がいいのか。
実際のエピソードよりも話を盛りたくなるのか。
こういったディテールの部分に、
監督の思い入れが見え隠れしてしまうところも、
半自伝的映画の面白いところです。
ハッキリ言って、その主役カッコ良すぎでしょ?とかよくありますよね 笑
でもそんな自分本位の映画を作るためには、
ある程度のキャリアを積んだ監督、
もしくはグレタ・ガーウィグのように役者としての知名度を
すでに得ている人となってきます。
しかし、フランソワ・トリュフォーは違いました。
大胆不敵にも、半自伝的映画で長編デビュー。
(それまでは、3本の短編&映画評論家としての活動)
そして、その作品『大人は判ってくれない』は、
カンヌ国際映画祭にて監督賞を受賞し、公開後も大ヒット!
一躍"ヌーヴェルヴァーグの旗手"として、
世界的に知られるようになったのです。
こんな、半自伝的なお話となっています。
***
アントワーヌ・ドワネルはパリの下町に住む13歳の少年。
学校ではいつもいたずらばかりして先生に目をつけられている。
共稼ぎの両親は、夫婦仲が余りよくなく何かと口論ばかりしていた。
そんなある日、遊ぶ金に困った彼は
父の会社のタイプライターを盗んで質に入れようとしたが、
すぐにバレてしまい、両親は彼を少年鑑別所に入れてしまう…
***
このアントワーヌというキャラクターには、
母親と彼女の再婚相手という家庭で孤独に過ごし、
親によって少年鑑別所に放り込まれる少年時代を送った
トリュフォー自身が投影されています。
家庭にも学校にも自分の居場所を見いだせない、あまりに孤独な男の子。
一方、そんなアントワーヌとは対照的に、
幼稚園ぐらいの子どもたちが夢中になって
人形劇に魅入っている表情を映し出すシーンがあります。
純真無垢な子どもたちの表情。
子どもとは本来こんなにも無邪気なものなんだよ、
というトリュフォーの熱い思いが込められているようで、
涙なしでは観られない"さりげない"名場面となっています。
そしてこの映画は、映画評論家のアンドレ・バザンに捧げられています。
バザンはトリュフォーが10代で出会い、
親との関係に恵まれなかった彼の精神的な父親。
もしバザンと出会わなかったら、
映画監督トリュフォーは存在しなかったと言っていいほどの大恩人です。
そんなバザンの命日と、
『大人は判ってくれない』のクランクインは、じつは同じ日。
残念ながら、記念すべき長編デビュー作を
バザンに観せることは叶わなかったのです。
そんな思い入れたっぷりな本作の成功を受けたトリュフォーは
「アントワーヌ・ドワネルの冒険」シリーズをスタートさせます。
他の4作も、主演はジャン=ピエール・レオー。
彼の成長がそのままドワネルの役に反映されるという、
ユニークなシリーズとなっています。
合わせてぜひご覧になってみてください。
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『大人は判ってくれない/あこがれ』
Blu-ray 4,800円(税抜)
発売・販売元:KADOKAWA
映画選定・執筆
キノ・イグルー
有坂塁
東京を拠点に全国のカフェ、パン屋、酒蔵、美術館、 無人島などで、世界各国の映画を上映している。
さらに「あなたのために映画をえらびます」という映画カウンセリングや、
目覚めた瞬間に思いついた映画を毎朝インスタグラムに投稿する「ねおきシネマ」など、
大胆かつ自由な発想で映画の楽しさを伝えている。
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