ヒップホップよりも後回し。
20代前半のぼくにとっての"ジャズ"は、
暴力的なイメージの強いギャングスタラップよりも、
遥かに縁遠く、敷居が高いものでした。
正確にいえば、ボーカルのないインストゥルメンタルのジャズ。
当時は、歌モノ以外は音楽として認めることができず、
マイルス・デイビスやビル・エヴァンスといった巨匠でさえ、
デパートで流れるmood musicぐらいにしか思ってなかったのだから、
無知って本当に恐ろしい 笑
そんなぼくにジャズの魅力を教えてくれたのが、映画監督のウディ・アレン。
1995年に『ブロードウェイと銃弾』という作品を、
恵比寿ガーデンシネマで観た瞬間、
ウディ映画とジャズの両方に恋に落ちてしまったのです。
全50作ある彼の作品群のほとんどで、
1930~50年代あたりのスウィング・ジャズが使われています。
ウディ自身が熱狂的なジャズ・ファンで、
彼の作品を観れば、自ずとジャズの知識は深まり、
気づくと当たり前のようにジャズ・ファンになっている、そういうわけです。
加えて彼には、クラリネット奏者としての一面もあり、
そこにフォーカスしたドキュメンタリーこそが、
今回ご紹介する『ワイルド・マン・ブルース』。
ただの記録映画に止まらない抱腹絶倒の面白さ。
ぜひとも、ウディ・ファン以外にも観てもらいたい
良質な"作品"に仕上がっているのです。
内容は、こんな感じ。
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映画監督、俳優、作家、脚本家など
多岐にわたる才能を併せ持つウディ・アレンはクラリネット奏者でもある。
長年ニューヨークのみで演奏活動を続けていたアレンが、
ニューオーリンズ・ジャズ・バンドを率いて
23日間で18都市を巡るヨーロッパ・ツアーを行うことになった。
そのツアーの模様をアレンに密着して収めた長編ドキュメンタリー。
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これはある意味、奇跡の1本です。
なぜなら、ウディ・アレンという人は
プライベートを見せることが極端に嫌なタイプで、
日常のルーティーンを大切にしながら、創作に励んでいる方。
その人が、ツアーとはいえ、
ステージ以外の時間をもカメラに晒してしまったわけです。
しかも完成した作品がドキュメンタリーなはずなのに、
どう見ても、ウディ・アレンのコメディ映画になっているのだから最高すぎます。
そんなドキュメンタリー観たことない!
シニカルで、偏屈で、理屈っぽい。
ぼくたちの知っている"あのウディ"を存分に楽しめますので、乞うご期待。
そして、ジャズです。
彼らが演奏するのは、超正統派とも言えるニューオーリンズ・ジャズ。
タイトルにもなったルイ・アームストロング「ワイルド・マン・ブルース」の他、
「ロンサム・ロード」や「シャイン」といった
歴史的名曲も数多く聴くことができるので、ジャズ入門編としても最適な作品です。
本気でプロのクラリネット奏者を目指していたということもあり、
その演奏はかなり本格的。
さらクラリネットを演奏しているウディ・アレンの驚くほどに真摯な姿から、
ニューオリンズ・ジャズへの心からのリスペクトが感じられ、胸を打ちます。
「ベニー・グッドマンや、ルイ・アームストロング。
ラジオのチャンネルを変えれば、ビリー・ホリデー。
子供の頃の毎日はジャズにあふれていて、僕はその頃の音楽が好きなんだ」
と語るウディ・アレン。
この夏は、最新作『レイニー・デイ・イン・ニューヨーク』も含め、
"ジャズ"という視点で、ウディ映画を掘り下げてみてはいかがでしょうか。
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『ワイルド・マン・ブルース ―デジタル・レストア・バージョン―』
DVD 1,800円(税抜)
発売・販売元:KADOKAWA
映画選定・執筆
キノ・イグルー
有坂塁
東京を拠点に全国のカフェ、パン屋、酒蔵、美術館、 無人島などで、世界各国の映画を上映している。
さらに「あなたのために映画をえらびます」という映画カウンセリングや、
目覚めた瞬間に思いついた映画を毎朝インスタグラムに投稿する「ねおきシネマ」など、
大胆かつ自由な発想で映画の楽しさを伝えている。
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